2019年3月26日火曜日

内田樹 比較敗戦論のために

http://openout.info/countryballs/countryballs-ww2-axis-powers-by-airstormmlp-on-deviantart.htm
BLOGOSに、内田樹氏の「比較敗戦論」というテーマで姜尚中氏とトークセッションした内容が記されていた。極めて重要な視点だと思うので、マレーシア連邦憲法の話を休憩して、エントリーしておきたい。

この「比較敗戦論」という語彙は、白井聡氏の「永続敗戦論」(日本人は敗戦を否認しており、それが戦後日本のシステムの不調の原因である)への対語である。日本については同意するも、他の敗戦国はどうか?という視点をもつべきだというわけだ。

第二次世界大戦の敗戦国といえば、日独伊とくるけれども、フィンランド、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、タイ、これらは連合国が敵国として認定している。その他に、連合国が国と認定していない交戦団体として、フィリピン第二共和国、スロバキア共和国、クロアチア自由国、満州国、中華民国南京政府がある。内田氏は、これらの国が敗戦経験をどう受け入れたのか、ほとんど何も知らない。敗戦を否認した国が日本以外にもあるのかどうか知りたい、と考え、2019年の寺子屋ゼミを通年テーマにしたと言う。

フランスは果たして戦勝国なのか?南部のドイツ傀儡政権となったヴィシー政府はファシズム的で、ドイツに多くの労働者を送り、反ユダヤ的で政策に大いに強力した。たしかにド・ゴールは、ロンドンに亡命し自由フランスを立てたけれども、任意団体というのがふさわしい。まさにDデーからパリ解放までに間に、事実上の枢軸国から連合国の一員になり、綱渡りで戦勝国になったといえるそうだ。これによって、フランスは敗戦を総括する義務を免除された代わりに、自らの暴力性について無自覚だというトラウマ(特に10%をしめるムスリムに対して)を抱え込むことになった。これが、フランス思想の専門家である内田氏の考察である。

イタリアは、自らムッソリーニを引きずり下ろしている。内戦化し、ドイツ軍を追い出している。したがって、戦勝国だといってもおかしくはない。実は、1945年7月には日本に宣戦布告している。ド・ゴールのようなカリスマがいなかった故、戦後の立ち位置が大きく変わってしまった。イタリアは敗戦を自業自得と受け止めているようである。

ドイツは敗戦経験の処理に成功したと言われている。しかし東ドイツは「戦勝国」であるとされている。東ドイツ国民はナチスと戦った共産主義者が戦争に勝利して建国したということになっている。1990年の統一で人口の20%がそういう感覚をもっていた。これを日本に当てはめてみると、どれだけ敗戦の総括が大変であるかがわかるだろうと内田氏は言う。
https://blogos.com/article/366092/?p=1

…実に興味深い話だった。この後、小津安二郎や司馬遼太郎の話、さらにアメリカの戦争総括方法などに発展していくのだが、実に興味深い内容であった。私も知らないことが多かった。F40Aの社会科学をやろうとしている卒業生には是非呼んでおいて欲しい論考のひとつだ。

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