2012年8月29日水曜日

『生きていく民俗』を読む

私は文化人類学は大好きだが、日本の民俗学には、あまり属性がない。そんな私がふと眼を止めた文庫本が『生きている民俗 生業の推移』(宮本常一著・河出文庫/本年7月20日発行)であった。普通、民族学では祭りとか特異な風習とかいった視点が多い。しかし、この本は「生業ー職業」に焦点をあてていて、面白いかなと思ったのだ。

宮本氏は山口県の周防大島出身。農家を手伝っていたが、大阪で郵便局に勤める傍ら市の内外を歩きまわることが好きだったようだ。大阪天王寺師範学校二部(現大阪教育大学)に入学し、大阪で訓導(現小学校教諭)となる。以後民俗学の研究の道に入るわけだ。決してエリートではなく、地道なフィールドワークを行った方で、柳田国男とは学閥が違い冷遇されたらしいが、民俗学の第一人者らしい。

この本の構成は、「自給可能な社会」と、それがままならならず交易を介することによって成り立つ社会、この2つの社会を軸に、生業=職業を探るカタチをとっている。自給可能社会として、奄美大島のさらに南にある宝島の話が出てくる。これがなかなか面白い。戦前までほぼ自給自足の生活が可能だったという。これは、塩の問題が大きいらしい。海の水から塩が作れるからである。それほど「塩」は重要だったのだ。長野県の塩尻などは、ここまで塩が運ばれてきたことが地名の由来になっているとか。たしかに、中国古代史でも塩の専売の話が出てくるし、ヨーロッパの中世史では岩塩の産出で富を蓄積した都市の話が出てくる。アフリカでも塩の道がある。ついつい、高校の世界史では、こういう重要な部分を無視してしまいがちだが、この本には、そういう生業の原点が示されている。民俗学の本だから日本の歴史が舞台だが、世界史の授業にも大いに応用できるわけだ。

と、同時に、今月は、イスラエルのレポートばっかりで、アフリカの話があまりエントリーできていない。この本を読んで、そういう法則性はアフリカにも応用できるのではないか、などとアフリカのことを漠然と考えていた次第。
もちろん湿潤な定住農耕社会である日本と全く同様だとは思わないが、自給自足の村に必要不可欠な生業という視点から、他の村との繋がりが見えてくる。そういう意味でも面白い視点を与えてくれた本だと思うのである。

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