2019年3月24日日曜日

マレーシア連邦憲法を読む 3

https://tvtropes.org/pmwiki/pmwiki.php/Characters/PolandballAsianNations?from=Characters.PolandballSouthEastAsianNations
さて、マレーシア連邦憲法の第2条は、「連邦への新領域の編入」国会は法律により、(a)他州の連邦への編入を認めることができ、(b)(当該州および統治者会議の同意があれば)いかなる州境を変更することが出来る、ことが述べられている。…日本と異なり、マレーシアは州で構成される連邦であり、第1条に付随してこのようなことが書かれてあるのだと理解できる。

第3条には、「連邦の宗教」である。(1)イスラム教は本連邦の宗教である。ただし、他の宗教も連邦内のいかなる地域にかかわらず平和と調和のうちに行うことが出来る。(2)統治者をもたない州以外の全ての州に於いて、統治者の地位は当該州憲法が認め、宣言するかぎりにおいて、同州におけるイスラム教の長である。また同教の長として統治者がその憲法に基づき亨有する全ての権利、特権、大権などは、これを動かし、損なうことができない。しかし統治者会議において、統治者達が本連邦に対し一括付託することに同意した行事、祭式、儀式については、各統治者はイスラム教の長としての権能において、最高元首にこれを代わって司る権能を与える。(3)マラッカ州、ペナン州の憲法には、同州におけるイスラム教の地位を最高元首に付託するとの規定をつくる。(4)本条の規定はいずれも本憲法の他のいかなる規定によっても損なわれない。(5)本憲法のいかなる規定にも関わらず、最高元首はクアラルンプルおよびラプアンの連邦区に於けるイスラム教の長とする。国会はこの目的のためイスラム教の宗務を定めかつイスラム教に関する諸事項につき最高元首に助言する評議会を設置するための規定を法律により制定する。(全文/原文のまま)

…この第3条は、(1)イスラム教を国教とすること他の宗教の信教の自由、ならびに(2)各州の統治者(スルタン)をイスラムの長とすることと、その独立性を謳っている。要するに、各州のイスラム評議会は、(ウンマ=イスラム共同体の合意事項であるイジュマ-にあたる)ファトワを決めることが出来るが、各州のスルタンがそれを可能にしているといえる。(3)シンガポール同様イギリスの海峡植民地だったマラッカ州とペナン州、さらにサバ州・サラワク州にはスルタンがいないので、スルタンの役割を国家元首(9州のスルタンの中から互選で選ばれる国王)に付託されること、(5)連邦直轄領のスルタンの役割も国家元首が担うこと、これらイスラム教の宗務を定める為の評議会(=スルタンの会議/統治者会議)を設置することが規定されている。なかでも、(4)第3条は憲法の中で他のいかなる規定によっても損なわれないという条文が光を放っている。

…マレーシアは、イスラム教を国教としており、マジョリティであるマレー系をはじめとしたムスリムにとっては、神定法であるシャリーア(イスラム法)が、ある意味、領域国民国家・マレーシア連邦の定めた人定法である憲法以上の効力をもっている。(二重の法の支配があるわけだ。)そのシャリーアの守護者が9人のスルタンであり、かれらの統治者会議が国王を選出しスルタン不在の地域も含めて、このシャリーアを護り続けるというシステムが規定されている。このシステムは、人定法である憲法の他の規定によって損なわれることがない。
…マレーシア連邦では、人定法としての憲法のもと、領域国民国家に、あらゆる民族が暮らしているが、同時にマレー系をはじめとしたムスリムは、神定法のシャリーアの下でその守護者/国王ならびにスルタンの元で暮らしている。これを憲法が保障していると明示しているのが、この第3条なのである。極めて重要な条文である。

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