2019年3月10日日曜日

「知の逆転」を読む Ⅱ

『知の逆転』の備忘録を続けてエントリーしたい。全ての言語にはその深層に共通する文法が存在し、そこから様々な表層構造が生成されており、人間は言語の基本文法を生得的な器官として持って生まれ、不十分なインプットで十分な言語能力で十分な言語能力が発揮できるという「普遍文法」の理論で言語学に革命をもたらしたMIT(マサチューセッツ工科大学)のノーム・チョムスキー名誉教授の章から。
彼は、プラトン・フロイド・聖書と並んで最も引用回数の多い著者であるというのが凄い。彼は哲学者であり、政治運動家でもある。特に面白かった箇所を記しておきたいと思う。

資本主義とか社会主義とかいう言葉を使う際には気をつける必要がある。アメリカは資本主義の国ということになっているが、実はほとんどのものは、経済の公共部門から出来てきたもの、つまりもともと税金によって政府のプロジェクトとして開発されたものである。アメリカでは経済の公共部門(政府による資金供与)は非常に強力で、MITはその中心。50年前から、ここでコンピュータ開発がされ、私企業に手渡されるまで何十年も政府が研究資金を供与してきた。おそらく近年最大のアメリカの最大輸出品目である民間航空機も、要するに改良を加えた爆撃機であり、航空電子工学、計測工学などのやっかいな研究は国家防衛の名目で全て政府の支援によって行われた。ボーイング社とエアバス社はWTO(世界貿易機関)の会合でどちらが政府の資金援助が多いかもめているという。そうなると、資本主義とは何なのかということになる。チョムスキー氏によると唯一市場原理で動いているのは金融部門であり、だからこそ何度も破綻すると主張する。

…この指摘だけでも凄いと思う。MITの博物館を昔々訪れたとき、その技術開発の歴史に驚いた。私が一番驚いたのは様々な計算尺であったが、計算尺のアイデアから、やがて資金援助を受けてコンピュータ開発へとMITは進めていったのだ。インターネットしかり。GPSしかり。アメリカの得意とする輸出品のメインは、政府援助によるものだと言われて納得せざるを得ない。

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