2018年11月4日日曜日

ブミプトラ政策の20年を読む3

ムルデカスタジアム近くに建設中(2019年完成予定)のPNB118ビル
https://blogs.yahoo.co.jp/harimau2017/40847604.html
「マレーシアの社会再編と種族問題ーブミプトラ政策20年の帰結ー」堀井論文のエントリーの続きである。間接的なブミプトラ政策から、国家が直接参加しての資本蓄積を進める話である。…こういう詳細なレポートは実に勉強になる。

まず、公企業を政府は次々に創設していく。1.官公庁が行う官公庁企業。2.特別の法律によって設立される法定公社・公団、3.会社法に基づいて設立される会社公企業ないし公有企業の3種類である。最も多いパターンは、2の法定会社の子会社として3の公有企業を多数設立するというものだった。(全貌はあきらかではないが、900にも達すると言われている。)

マレーシアの予算支出は、経常支出と開発支出の2種に別れている。開発支出の中の「公共部門からの民間投資資金調達、その他の移転」という項目から、上記の2と3へ資金調達が支出されている。こうした公企業は、予算規制外機関・企業、非財政部門公企業などと名を変えていく。さて、最初に錫鉱業や巨大農園経営企業などのイギリス系の企業買収が行われた。ロンドン登記をマレーシア登記に変え、重役や取締役の過半数をブミプトラで占めていったのである。さらに、中華系の銀行・金融資本も同様で、本書の書かれた1999年時点で、70%が国家資本に掌握されることになった。

次に、政府は、第二段階として、一般ブミプトラ大衆に、その株を委譲することに着手する。特定の高い地位にある者や富裕層に集中しないよう、またその株が非ブミプトラに転売されないように、受益証券信託ユニット方式をとる。具体的には、YPB(ブミプトラ投資基金:政府の投資戦略の立案・決定機関)のもとに、YPB100%出資のPNB(国営持ち株会社)が作られた。このPNBが優良企業の株式を購入し、実際の投資活動を行う。PNBで購入された株式はASN(PNB出資100%の国営投資信託会社)が、信託ユニット方式でブミプトラ大衆に再分配するという仕組みである。

株式委譲の再分配も具体的に記されている。払込資本・RM25万以上・政府51%保有の会社の具体例では、保有株の70%を原価または額面価でPNBを通じてANSに移される。発行株の5%は当該会社の経営者・従業員(5年以上勤務が条件)に、給料に従い、5000~1万ユニット(1ユニットはRM10)を民族に関わらず分配。残り25%は、ブミプトラによって100%所有している団体・協同組合および会社に分配される。この内の50%はイスラム巡礼積立・運営基金や軍人積立基金および連邦・州レベルの団体に分配され、さらに40%が警官や軍隊、残り10%は100%ブミプトラ所有の会社に割り当てられる。

このような方法で行われた再分配。本書にある1984年現在のPNBの保有株の再分配の状況は、やはりというべきか、スルタン・貴族・および政治家(全投資者の0.1%)の投資額は0.7%、管理職および上級技術者(同0.9%)の投資額は9.0%など、社会の上層部にある人々への配分が多い。労働者および非事務員(同17.1%)の投資額は9.2%、農民(同17.3%)の投資額は7.8%となっている。ブミプトラ全体としては、資本所有比率が17.8%にまで増加したが、再分配にはマレー系内の新たな階級的対立を産む可能性があると著者は指摘している。

なお、日本同様、公企業は民間企業に比べて経営不振になりやすい。マレーシアでも同じで、民営化が進められる。その際も又、ブミプトラ関連の団体に資本が振り分けられたようだ。

こうして見ると、ブミプトラ政策はかなり強烈で強引な印象を与えるが、マレーシアの歴史的な視点、すなわちイギリスの植民地政策に起因する民族間の経済格差を十分念頭に置いて評価されるべきだというのが、この論の結びの言葉である。私も同感である。

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