2011年7月22日金曜日

「遊動民」レンディーレの小家畜

レンディーレの人々
夏季休業に入って、私は職員室で朝からひたすら2学期の教材研究三昧である。世界史Bのギリシア・ローマ史のプリントをじっくり作っている。さすがに午後3時くらいに集中力が切れた。で、久しぶりに『遊動民』を読んでいた。第10章「レンディーレと小家畜の比定関係」(佐藤俊:現筑波大学教授)が面白かった。レンディーレは、ケニア北部のソマリ系の言語を話す牧畜民で、らくだと小家畜を主に飼育し、副次的に牛も飼育している。この論文では、小家畜(ヤギと羊)をどのように差異化しているのかが書かれている貴重なものだと私は思う。

ブルキナで、1泊2日でサヘルに行って帰った夜、Iさんが「緑のサヘル」というNGOのMさんを呼んでくれて、ヤギ肉(焼き肉)を食べた。臭みもなく美味しかったのだった。Mさんはサヘルの専門家である。Iさんの心遣いに大いに感謝したのだった。さっそく私は、ミレットとソルガムの耕し方の違いなどを質問したのだった。もうひとつ、よく覚えている会話がある。私は「ブルキナにはヤギしかいないのですか?」と聞いたのだ。Mさんは大笑いして、こう答えた。「良く似ているので間違えやすいのですが、耳が垂れているのが羊です。私も最初不思議でした。」そうなのだ。私にとって、アフリカの羊とヤギの違いは「耳」なのだ。(笑)

羊は耳が垂れている。ヤギは立っている。 レンディーレの画像より
この論文には面白いことがたくさん載っていた。レンディーレ社会では、ヤギや羊は明確に差異化されている。彼らはヤギには社会性がある、と考えている。羊はすぐ集団になりたがる”群がりの家畜”である。歩行中のヤギや羊の前に立ちはだかってみると、ヤギは速やかに迂回する。羊は障害物を気にせずそのまま歩行を続け、股の間を強引に通過しようとする。屠殺される時、ヤギは激しく泣き叫ぶが、羊は比較的おとなしくなされるままである。ヤギのオスは日に何頭ものメスと交尾するが、羊は1日1頭のメスとしか交尾しない。ヤギは利巧だが、羊は馬鹿だと考えている。だから、彼らは、ヤギには、らくだや牛と同様の系譜を付与するが、羊は個体の特徴だけで言及する。

また、レンディーレでは、家畜の「冷熱分離」を設定している。ヤギは「熱系」、羊は「冷系」である。たとえば、ヤギの血は「熱系」なので、冷涼な雨季に飲むのがよろしい。羊の血は「冷系」なので灼熱の乾季に飲むのが良いとされている。脂肪や肉も同様、ヤギは「熱系」で精力がつき、体が太ると評価されている。羊は腹もちの悪い冷たい食材だと考えられている。面白いではないか。

ブログで、レンディーレの社会構造を詳細に書く余裕がないので割愛するが、青年期の男性は原野で過酷で危険な遊動生活を送るので、ヤギが比定されている。一方、家庭をもった男性(長老)は共同体的なまとまりを維持し穏やかな人格が期待されるので、羊が比定されるという。通過儀礼でもヤギは原野で、羊は集落内で供養される。…なるほど。

ところで、こんな記述があった。彼らは、『乳製品と肉を一緒に調理することはない。また肉食のあとには、半日くらい乳製品の摂取をさしひかえる。そうしないと、腹痛をおこすからである。』私は、この記述から、ユダヤの律法(食のタブー)を思い出した。出エジプト記23章「子ヤギをその母の乳で煮てはならない。」腹痛を起こさないための長年の遊牧民の知恵から来たのであろうと思うのである。

レンディーレの画像:孫暁剛氏のHPより
http://www.africa.kyoto-u.ac.jp/~sun/jrendille.htm

レンディーレによると、羊は「冷系」で馬鹿らしい。私の星座はおひつじ座で、さらに動物占いは「羊」なのだが…。(笑)

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