2011年7月2日土曜日

タンザニアのマチンガの話 2

ブルキナ・ワガの『マチンガ』 なぜが女性下着屋さん
『都市を生き抜くための狡知ータンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(3月22日付・付6月26日ブログ参照)を読み終えた。いやあ、面白かった。最高である。膨大な数の赤線を引いた。この本の内容をうまく伝えれるとは思わないが、今回の『マチンガの話2』では、マチンガとは、どういう人たちなのかを授業で語るとすれば、こんな感じかなというイメージで描きたい。私は文化人類学の研究者ではないし、現場の高校教師だからだ。

マチンガというのは、タンザニアの都市で、様々なもの(古着とか時計とかバッグとか)を小売りする商人のことである。こういう人々を、私はケニアやジンバブエやブルキナファソでたくさん見た。要するにインフォーマルセクターに従事する人々なわけだ。だいたい30歳台くらいまでの若者が多い。彼らは、卸売商から商品を受け取り、それを販売する。路上でシートを広げて販売したり、商品を持ち歩いて行商したりする。儲けは少なく、せいぜい日々の生活費を稼げる程度である。

彼らの商売は面白い。この本に書かれている古着販売では、卸売商は、マチンガと信用取引を行っている。つまり、古着の中からグレード(6月26日付ブログ参照)ごとに、いくらといった商品の値段の基準を決め、手渡す。その日のうちに売れた枚数分の金額をマチンガは卸売商に渡すわけだ。たとえば、その日のグレードAは1500シリング、Bは1000シリング、Cは500シリングだとする。マチンガは、Aを2000シリングで売ったとすると500シリングの儲け、Bを1200シリングで売ったとすると200シリングの儲けになる。だが、ここが面白い。金のありそうな客からは、うまく騙して(?)Aを3000シリングで売ることもある。反対に、貧乏な客からはCを卸値の500シリングで売ったりもする。その客によって価格を変えるのは当たり前である。もちろん売れ残ったり、ひどい時はまったく売れない時もある。こういう時、卸売商は、マチンガの返品を受け付けるし、生活費を援助したりすることもある。この信用取引をマリ・カウリ取引というらしい。
この辺の、客とのやりとり、さらに卸売商とのやりとりが、ウジャンジャと呼ばれる狡知である。これが面白い。口八丁手八丁、一瞬の機知。会話の裏の真意を見抜く知恵。
ちょっと、具体例をあげよう。顔見知りの日雇労働者とマチンガとのやりとり。

客「いくら?」小売商「1800シリング、おれのお客さん」客「ちっ、なんでそんなに高いんだよ。1000シリングでどうか。」小売商「1000シリングじゃ儲からない。オレの親友、あんただって、服の値段くらい知っているくせに。」客「頼む、1000シリングで同意してくれよ。俺たちディ・ワーカーだろう。最近、俺本当に運がないんだよ。」小売商「友達よ、死にそうなんだよ。あんたの値段じゃ、オレが死んじまう。1500シリングにしようぜ。」客「わかった。そんじゃまたな。」小売り商「おい、ちょっとだけ足してくれよ。」客「もういいよ。俺ほんとに金ねえもん。」小売商「わかったよ、出せよ、その金。」

結局、この顔見知りの客に1500シリングの値で卸売商から仕入れたAグレードの古着を1000シリングで売ったのである。この会話には、数々のスラングが使われているらしい。そのスラングからマチンガは、客が本当に金がない状況を瞬時につかみ取り、将来常連客となるとふんで、赤字をだしながら販売したのである。こういう客の判断を『リジキ』というらしい。

閉話休題。ブルキナのワガで、私は地図や教材のためのブルキナの英語のガイドブックを、ワガの「マチンガ」から買った。たしか地図が日本円になおすと1枚1000円、アトラスが2000円だった。Iさんの紹介なので無茶はしてないだろうが、きっと私の『リジキ』を彼らは、それくらいなら買うだろうと判断したのだと思う。どっちみち、ブルキナに金を落とせるだけ落とすつもりだったので文句はないが、きっとそうだ!と私はそんなことを考えて、読んできたのだった。

とてもとてもこんな短いブログでは語りつくせない。…つづく。

2 件のコメント:

  1. tsujiさん
    あ~先に読まれちゃいましたね(笑)。
    僕は、いつもアフリカ学会でこの本の著者の「前座」をやらされます。同じアフリカの都市を研究していて、同じセッションに組まれることが多いからです。僕の発表の途中からやたら人が増えて、「自分が人気者?!」とアリもしない妄想に駆られていると、何のことはない、著者の発表を聞きにきた人ばかり…しかも、発表が終わった後、お互い喫煙者のため、喫煙所でモクモクしていると、「荒熊君、君の発表もなかなか面白くなってきたよ」と、聞いてもいない僕の発表をほめてくれる、とても「優しい≒ウジャンジャ的な」人です(笑)。
    ただ、この人の調査のしつこさは天下一品で、データ量が本当にすごい。プレゼンテーションの能力も一級品。帰ってから読もうと思っていますが、理論もしっかりと噛み砕けている(はずだ)し、人類学を専攻している人にもちゃんと読めるようになっているのだと思います。紹介していただいて、研究仲間としてお礼申し上げます。

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  2. 荒熊さん、コメントありがとうございます。ニジェールからブルキナへといかがでしょうか。ブログの騒乱の後の話を読んで、あるいはこの小川さんの論文を読んで、また遊動民を読んで、思うところがあります。またブログに書きますね。ご批判よろしくお願いします。

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