2011年7月21日木曜日

貧困問題のシンプルな解き方2

IDEの足踏みポンプ
台風一過の後、大阪は鉛色の曇り空だった。いつ雨が降るかと思うのだが、結局雨は降らずだった。蝉はその辺、良くわかっているのだろう。喫煙に公園に行ったら、ハードロックなみの大音響で鳴いていた。まったく蝉の持つ自然のセンサー能力に脱帽である。

さて「世界一大きな問題のシンプルな解き方」(ポール・ポラック著 英治出版)を完読した。今日は18日付ブログの続編を書きたい。

要するに、ポラック氏は、貧困問題こそ、世界の様々な問題に関わっていると言う。この貧困問題を、先進国や国際機関は途上国政府を経由して支援している。その結果は、汚職にまみれたガバナンスを生み、健全な市場をつくれなかったし、インフラを整備しても、最も支援すべき1日$1以下で生活する、国連のミレニアム開発目標がターゲットとする人々には届かない。
1日$1以下で生活する人々の多くは、1エーカーの小さな農場で自給自足する農民が最大多数である。この事実を抜きにして、貧困問題は解決できない。彼らの望んでいることは、収入増である。彼らが購入(投資)可能な低価格の灌漑設備から始めるべきだ。そこで、ポラック氏はIDEを立ち上げ、そのための地球規模で持続可能なデザインを開発する。足踏みポンプや低価格のドリップ式灌漑設備などである。乾季に小規模な土地でも野菜を育てることが可能になり、即効的に収入増を計ることができた。ネパールやバングラディシュなどで成功を収め、自らの投資によって現金収入を増やし、1日$1以下の生活から脱出できた彼らは、保健・医療や教育、輸送、エネルギー、環境問題などの改善に進んでいった。世界中の支援は、およそ政府間支援が80%、民間投資が20%である。これを逆転させるべきだ。BOPビジネスに、大学や企業の目を向けるべきである。…と、いうのが、およその概要である。私は、ポラック氏の提案に全くもって同意する。たとえば教育の充実は「開発」にとって極めて重要だ。しかし、いくらインフラの充実で学校のハコモノが出来ても貧困の根をまず断たねば、子供たちは通えないし、給料が払えなければ良い教師を雇えない。ポラック氏の方法論はまさに、シンプルで的を得ていると言わねばならない。同様のことが、他の問題(保健・医療など)にもあてはまる。

ポラック氏の率いるIDE(International Development Enterprises)は、インドやネパール、カンボジア、ミャンマー、ザンビアで足踏みポンプを助成金なしで販売してきた。ケニアに本部がある「キックスタート」は、バングラからケニアにまで運び、現地の状況に合うように設計し直してケニアとタンザニアで600万台発売した。マラウイ政府も75000台を販売している。開発組織の「エンタープライズ・ワークス・ワールドワイド」は、ナイジェリアなど西アフリカの国々で足踏みポンプを製造販売している。(セネガルで600台、ニジェールで1200台、そしてなんとブルキナファソで15250台)

ドリップ式灌漑設備(IDE HPより)

ブルキナのサヘルへの道をたとえ1泊2日という短期間でも経験した私としては、1万5000台もの足踏みポンプが販売されていることに、大きな驚きと喜びを感じる。ブルキナの気候は、南から北へ向かうに従って降雨量が減少する。どのあたりで利用されているか物凄く興味がある。おそらくは、首都ワガの近郊や南部だと思う。ブルキナは比較的食糧事情がいい。さらに現金収入が増える農家が増加することは喜ばしいことだ。ブルキナは、サブ=サハラ・アフリカでは、穀物(主食)自給率がもともと高いほうだ。ポラック氏の意図が大きく花開く可能性がある。

アフリカの1エーカー農家(IDE HPより)

しかし、アフリカ全体の農業の最も大きな問題は、穀物(主食)自給率の低さなのである。今回の東アフリカの干ばつでも露呈したが、需給バランスが狂うと大きく穀物価格が上昇する。1エーカー農家の所得が増えれば、徐々にではあるが、自給率も上がっていくと私は農学の門外漢ながら確信している。教育レベルも向上するだろうし、資金さえあれば様々な地域にあった生産性の向上(低コスト・低リスクの緑の革命)が図れるからだ。農業の生産性が上がり、自由な賃金労働者が排出されれば、さらなる都市居住者の経済発展も期待できる。彼らの豊かさへの努力、パワーに私も期待したい。

JICAのケニア視察の際、水田プロジェクトを見たことがある。ものすごく広いパイロットファームだったが、見事に失敗したようだ。朽ち果てた耕運機が印象的だった。面白かったのは、この農場の周囲に自然に水田が広がり、見よう見まねで頑張っている農民が出てきたという話だった。彼らは懸命に働き、収入を倍増させたらしい。そう、彼らには、大きなパワーがあるのだ。

この「世界一大きな問題のシンプルな解き方」、なかなかのお勧め本である。K大のO君、タンザニアに行く前に読んでおくことを勧める。アフリカに足踏みポンプやドリップ式灌漑設備を見に行くというのも、なかなかオシャレな目的になるのではないか。(笑)
IDE(International Development Enterprises)のHP:
http://www.ideorg.org/(ただし全部が英文です)

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