2011年7月18日月曜日

「貧困問題」のシンプルな解き方

『世界一大きな問題のシンプルな解き方』(ポール・ポラック 英治出版)を読んでいる。ホントは完読してからブログを書くつもりだったのだが、このところ疲れがたまっていて、出勤や公開講座や野球の応援に行く際も目を閉じていることが多かった。半分くらい読んだ時点での中間報告をしておきたい。
この本は、貧困問題についてその対処法が書かれているのだが、開発経済学の本ではない。ビジネス書に近い。と、いって著者は、ビジネスマンではなく、父親がホロコーストの生き残りというユダヤ人の精神医だという不思議な本だ。

まえがきに、こうある。『貧困に関する本で、読後に罪悪感を持つような本は好きではない。無味乾燥で眠くなってしまう学術書も嫌いだ。貧困撲滅の仕事は、生き生きとして、刺激的で、新たな希望や感動を生みだすものだ。陰気なものでも、悲しいものでもない。貧困についての真実を知ることで、破壊的イノベーションを生み出せる。それは貧しい人たちの生活を豊かにするが、それ以上に豊かな人たちの生活も豊かにする。』この文章の意味するところ、それは著者のポール・ポラック氏の生き様のような気がする。彼は、1日$1以下で生きる人々の話を聞き、その問題を十分把握し、貧困撲滅のアイディアを地全体の市場規模をもとに考えてきた。従来から行われてきた政府や国際機関主導のトップダウン型の大規模な国際開発とは異なり、現地の人々の目線に立ったボトムアップ型のアプローチである。

『1日$1以下で暮らす人たちの4分の3は、小さな畑で暮らしを立てている。広さが5エーカー(約2万平方m)未満の農場は、中国では全農場の98%、バングラディシュでは96%、エチオピアでは87%、インドでは80%である。1日の稼ぎが$1未満の人たちのうち8億人は、その稼ぎのほとんどを1エーカーの農場から得ており、その農場も4つか5つの小さな区画に分散している。』彼の目線は、貧困に苦しむ人々の最大多数を手助けするという発想に向く。ここで、彼は、彼らの購買力や期待するものを検討する。彼らが購入(投資)することが可能で、しかも目に見えて良い影響をもたらされるようなプロジェクト。それは、$25の市場価格の足踏みのポンプであり、コストが従来の5分の1の小さな畑にも設置できるドリップ灌漑システムであったのだ。

彼は、寄付によって人々を貧困から救えるというのは誤解だという。
先進国や国際機関の巨額のインフラ投資、大型農業プロジェクト、大規模灌漑などは、1エーカーの農場で生計をたてる人々素通りしていく。反対に援助資金によってガバナンスが悪化し、腐敗や賄賂で市場が歪み、その投資の効果が打ち消される。多くの組織が手押しポンプを寄付したが、2年後には80%が使用されていない。所有者が明確ではないので故障しても誰も修理しないからである。だからこそ、彼は、貧しい彼ら自身の個人投資にこだわる。…納得する。その通りだ。

さらに彼は国家の経済成長が貧困を無くすというのは誤解だという。
国家規模での経済成長は、ほとんどが都市部の工業化によっている。中国やインドは驚異的な経済成長を達成しているが、未だに両国で5億7500万人もの1日$1以下で生活する人々がいる。僻地の農村や都市のスラムの人々の所得を増加させない1人あたりのGDPで、貧困を計ることは間違っている。…これは、現在のジェフリー・サックス的開発経済学への大きな疑義である。私はこれに反駁したりする知識をもたないが、現実問題として納得できる論である。

現地の人が何を必要としているかを見極め、それを持続可能な形で提供し、貧困から脱却する手助けをしている彼の提案には、説得力がある。これからのBOPビジネスをけん引する物凄いパワーを感じた次第。

今回はここまで。完読したら、また続編を書きたいと思う。特にアフリカという視点から書きたい。

2 件のコメント:

  1. 14(日)の日経の書評でこの本を知りアマゾンで買おうとしたら売ってなくて貴方のブログを読んでいます。

    私の住んでいる神戸市東灘区では阪神大震災で空き地になったままの宅地があちこちにまだあります。

    そこを農地に使う近隣コミュニティ活動を考えています。

    それにこの本は役立ちそうな気がしているのです。

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  2. 木村さん、コメントありがとうございます。日経に書評が出ていたのですか。知りませんでした。これからもよろしくお願いします。

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