2018年12月23日日曜日

今年この1冊 2018

山塞企業の模造品スマホと本物 https://chinese-homepage.com/modules/d3blog/details.php?bid=189
今年のこの1冊は、「その日暮らしの人類学ーもう一つの資本主義経済ー」(小川さやか著/光文社文庫・2016年7月)に決まりである。日本人会の無人古書コーナーで、他にも良い本に多く巡り会ったが、日本で購入した比較的新しいアフリカの研究書であることがまず理由の1つ。もう一つは、現在の米中貿易戦争を読み解く鍵を与えてくれていることである。

アメリカの大統領閣下の対中国貿易戦争のきっかけは、先端IT技術の模造品への危機感である。山塞企業を野放しにする中国はけしからんというわけである。先進国が進めるグローバル経済にとって、これは当然ながら正義であろう。この本は、下からのグローバル化をタンザニアの都市零細商人の目と、中国の模造品市場から解き明かしている。

資本主義の発展は、脱テリトリー化(資本および労働が土地との結びつきを失い、商業取引という別の空間に持ち込まれること)と、国家によるテリトリー化と商業取引の規格化(商取引の正当性を裏付けるための規格・基準の策定、特定の商法を事実上排除するための規格・基準の策定)という2つの弁証法的な動きにより生じた。(引用されているこの文章は、ドゥルーズとガタリの議論を参考にしているらしい。)
こうしたフォーマルなシステムから押し流された、似て非なる領域がインフォーマルな領域であり、その日暮らしと海賊的な領域が潜んでいる。(P203~204)

…ドゥルーズ・ガタリの哲学における脱コード化は、見事な預言だったわけだ。アメリカ大統領閣下には、おそらく理解不可能な論議ではなかろうか。閣下の主張する正義は、構造的暴力を伴う。即ち圧倒的な経済格差が、途上国には存在する。しかし彼らは、インフォーマルな領域で模造品を手に入れることが可能になった。模造品であるとはいえ、スマホの機能を安い価格で享受できている。このことを悪であると決めつけることには、議論があるだろう。

…開発経済学が、このインフォーマルな領域を認めるか否かは、私にはわからない。ジェネリックの薬品が国際的に認められたこととは、開発された時差などの状況は異なる。(ジェレリック薬品は開発から時間が経ち、開発者は十分な利益を得た後で認められたが、スマホは、即座に模倣される。)かなり分が悪いことはたしかだ。

…このグローバル資本主義経済の脱コード化、インフォーマルな資本主義をどう理解すればいいのか、先進国の構造的暴力を伴う「正義」から切り捨てるのはたやすいが、論議するに値する重大事であると私は思う。

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