2020年1月12日日曜日

マレーシアの教育相辞任 考

次世代リーダー塾でのマハティール首相 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/439506/
久しぶりに、マレーシアの事をエントリーしようと思う。先日のイラン危機に際して、マハティール首相はアメリカを強く非難し、「イスラム教国は結束を強めるべきだ。」と訴えた。私は、マハティール氏をマレーシアが生んだ類まれなる天才政治家と尊敬している。だが、マハティール氏は開発独裁型の政治家であり、聖人君子だとは思っていない。以前、アジア通貨危機の時に後継者と考えていたアンワル氏(現副首相)を刑務所にぶちこんだこともあるし、前回の総選挙で手を組み、後継に指名したものの、なかなか禅譲しようとはしない。いや、できないでいる、と言った方がいいと私は思う。

ここには、マレーシアのブミプトラ政策をめぐるジレンマがある。おそらく、マハティール首相は、5.13事件を機に民族対立が激した時、マレー優遇の旗を振ったのは自分であり、経済格差がかなり縮小した現在、OECD入り(=先進国入り)を目指すうえでこのブミプトラ政策を縮小するのも自分の役目だと考えているように思う。自分が作り、自分が終わらせる…そう考えているのではないだろうか。
現在の国民国家マレーシアの政治は、人口比で言えばマレー系が多いが、経済面では中華系・インド系が中心で、彼らを無視できるような状況にはない。多民族共生のための政策バランスが絶対に必要なのだ。
先年、国連の人種差別撤廃条約の批准の際は、マレー系の保守勢力の反対にあって断念せざるを得なかった。これは、ブミプトラ政策破棄の前兆ではないかという危惧から出ている。しかし、マハティール氏は知っているはずだ。中華系・インド系の若者の頭脳流出がかなりの数に達していることも…。

先日、教育相が辞任した。その理由は20年から小学校の国語でジャウィ文字(マレー語のアラビア語表記)の導入を進めようとしたところ、中華系・インド系から反対運動が起こり、その責任をとることになったのだ。マレーシアでは、(あえてこういう表現を使うが)マレー語が国語である。これは憲法で絶対的な位置をしめている国是である。つまり、中華系・インド系の人々からすれば、マレー語の授業自体、あまり必要としていないところにさらに負担が増え、国教であるイスラム教の圧力が増すと感じたのだろう。中華系の学生を教えた経験からすると、家では中国語(ただし出自によって広東語や福建語、客家語などの差がある)あるいは英語で会話し、学校でマレー語と英語を学ぶことになる。非常に語学の時間が多いカリキュラムになっている。しかもマレー系学生は、意外にも、英語で自然科学を学んだ方が価値的だということを指摘したこともある。こういう事情を鑑みるに、前教育相のジャウィ文字導入は、時代に逆行しているように見える。

マレーシアの宿痾は、ブミプトラ政策を守り続け、イスラム化を進めたい保守的なマレー系の顔を立てながら、中華系・インド系の利害をある程度認め、多民族共生をはかり、経済成長を進めねばならないというジレンマである。開発独裁を批判するむきもあるが、私はマレーシアには必要だと思っている。現在のマレーシアがあるのは、マハティール氏が作り上げた上(政府)からの、圧力による多民族共生の成功と、絶妙なバランスで、西側とも中国とも是は是、否は否としながら経済発展の道を進んできたからだ。

今回のマハティール首相の「イスラム教国は結束を強めるべきだ。」という発言は、教育相辞任という政治状況がバックにあると考えるべきだと思う。(もちろん、アメリカのエゴ丸出しの保護主義は大嫌いだろうが…。)マレーシアの首相は聖人君子で務まらないし、あらゆる矛盾の中でその時その時の正解を導き出す能力が求められているのだ。

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