2019年6月8日土曜日

環境考古学の新書を読む。

またまた日本人会の無人古書コーナーで、RM1本を手に入れた。「森を守る文明 支配する文明」(安田喜憲著/PHP新書 1997年10月)である。かなり古い本だが、目次を見て興味をもった次第。この本は、半分、文化人類学と世界史なので、意外に早く読み進んだ。

最初は縄文人の土偶の話から始まる。妙に目が強調されているところから、シリアの大地母神との共通点が語られ、さらにメドゥーサに続く。アレクサンドロスやローマの皇帝は鎧にメドゥーサをつけていたらしい。ここでも邪気をはらう目の重要性が語られる。さらに、イースター島のモアイの話に進む。モアイは村長の死によって作られ、完成時に目の部分を挿入し、島の中央部を向いているそうだ。ところが、イースター島は、森林破壊で崩壊する。さらにさらに黄河文明より古いのではないかと言われている長江文明の三星堆遺跡の目が飛び出た青銅製のマスクにも話が飛ぶ。ちなみに、この三星堆遺跡の目が飛び出た青銅製のマスク、いつだったか忘れたが展覧会に行ったことがある。なかなかの迫力であった。また、我が家には息子のトルコ土産で青い目のガラスのペンダントがあるのだが、これも邪気を払い、他人がうらやむような結婚式や家の新築時に、他人の邪悪なものをにらみ返すためのものだそうな。
三星堆遺跡のマスク https://www.travel.co.jp/guide/article/14068/
人は死ぬとまず目に力がなくなる。目は生命の源泉であり人間の命の窓であり、新たな生命の再生を司るという畏敬の念を古代人は持っていた、これらはその例であると著者は主張する。

しかし、これらの目を強調した像は、森林の破壊と共に滅んでいった。縄文から弥生へ。地中海の森林破壊。イースター島の森林破壊…。森との関係はさらに蛇の話へ進んでいく。

日本書紀の三輪山のヤマトトトビモソヒメとオオモノヌシの話から始まり、バチカン博物館にある有名なラオコーンの横にある蛇巫女の像、常陸国風土記、クノッソスやエジプトの蛇の彫刻の話へと繋がる。意外だったのは、アレクサンドロス大王の母オリュンピアスは熱狂的なディオニソスの蛇信仰の信者であったことだ。彼女はいつもディオニソス信仰の儀式を執行するマイナデス(狂女の意)たちと生きた蛇を打ち振りながら、森の中を走り回っていたという。アレクサンドロスは母の影響を受けていたようで、アレクサンドロスではこの蛇信仰とメドゥーサ信仰が融合していく。蛇は、オオカミとともに森の象徴であると著者は主張している。

目と蛇、そいてオオカミ。こういったシンボルが森を守ってきたが、人間の文明(食のため、道具制作のため、神殿や棺桶などの宗教のため、船の制作のため、農耕地拡大のためなど)が、森を破壊していったのだというわけだ。なかなか環境考古学は興味深い。

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