2019年6月11日火曜日

環境考古学の新書を読む。4

ドルイド僧
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「森を守る文明 森を支配する文明」のエントリー4回目である。これで最終エントリーにしようと思う。環境考古学から見たドルイドの話とペストの話を中心としたい。

地中海沿岸の森林破壊が進んでいたが、アルプス以北では、オーク(かし・なら等)の森林が健在であった。この「オークの知恵を持つ者」という意味の名で呼ばれていたのがドルイド僧である。ケルト文明の中核を担っていた彼らは、冬になると葉を落とすオークの木のヤドリギの金の実を金の鎌で切り落とし、配っていた。このヤドリギの実の中にオークの生命が宿っていると考えられていたからである。しかも、このオークの樹皮の内側は柔らかく家畜の餌になった。欲張りなものがこの皮をたくさん剥ぐと、ヘソの皮を剥がれ、オークの大木の周りを皆に追いかけられ、内臓が出てきて死ぬというかなり強烈な刑が科せられた。まさに木のための生贄である。ドルイド教の世界では、人間と木は同等だったのである。しかし、ドルイドはキリスト教にとっては邪教であり、ドルイド僧は惨殺され、オーク共々滅ぼされてしまう。

ウィーンのペスト記念塔
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中世の12世紀から始まる大開墾時代は、まさに人間社会のために、自然を生贄とする時代となった。14世紀には、人口支持力を超えてしまう。ちょうど、地球も寒冷化が始まり1600年頃から著しい寒冷期(小氷期)に入る。その直後1348年にペストが大流行する。環境考古学的な視点では、森林破壊によって、オオカミ、キツネ、イタチ、フクロウといったネズミを捕食する動物の住処が失われ、ペストを媒介するクマネズミが大繁殖したのがその理由とされている。都市化が進み都市に人口が密集していたのも大きく、この時ヨーロッパの人口の25~30%が失われたという。16世紀から17世紀に再びペストが大流行する。この時も森林の枯渇が激しかったことが花粉調査で明らかになっている。すでに資本主義化が始まっており、木材の値段が急騰、少し遅れて小麦の値段が急騰した。都市の貧困層が食糧不足で抵抗力が落ち、被害が広がった。このペストが収まった理由は、森林消滅によってレンガ造りの家が増え、ネズミの生息する天井裏が無くなったからだと言われるが、著者は1660年から始まったイギリス東インド会社からインドの綿織物輸入が大きいと考えているようだ。毛織物に比べ、すぐ乾き、蚤の繁殖を防ぐことができたからではないかというわけだ。…なるほど、毛織物から綿織物への移行はこういう側面もあるのかと大いに感心した次第。

…この環境考古学の新書、なかなか面白い話が満載で世界史の教材研究として大いに参考になったのだった。

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