2016年6月18日土曜日

中田・橋爪「クルアーンを読む」9

土日定例の「クルアーンを読む」のエントリーをしようと思う。今日は、第三章、先週の続きである。話は、シーア派のイスマイール派について。ここで中田氏の衝撃的なコメントが飛び出す。

「イスマイール派は、礼拝とかも基本的にしません。」「神学的に言うと、すでに最後の審判が来てしまっていて、世の中はもう終わっているという考え方で、一般人はそれに気づいていない。最後の審判までは有効だったイスラム法はもう要らないという秘教派(パーティニーヤ)なんです。」これには橋爪氏も「彼らは、シーア派以前に、イスラムとは言えないですね。」と相槌を打つのだが…。

このイスマイール派は、イマームだけが重要で、一般信徒はその指示に従うだけ、終末が来たとイマームが宣言すればそれでおしまい。一般信徒にはそもそも教義を知る義務もなければ権利もない。なお、イスマイール派は、パキスタンに多い。十二イマーム派にはすごく敵意を持っているとのこと。ファーティマ朝はそもそもこのイスマイール派だったが、王朝ができてしまうと結局スンニー派的な法学をつくり長らえた。イスマイール派が長続きした例はこれしかなく、他はセクト、カルト的なレベルでしか生き残っていない。有名なアサシン暗殺教団(ゴルゴ13にも出てくる。)もすぐ潰れている。シーア派の場合、イラン的な光と影の二元論的なもの(注:おそらくゾロアスター教的なもの)が入っている、とのこと。これに、橋爪氏が「これらに比べて、ISはめちゃめちゃまともだな。」という感想を述べている。

次に、イエメンのフーシー派のクーデターの話に移る。カタールは、中田氏によると(サウジと同じ)ワッハーブ派になるのだが、すごく緩いとのこと。そもそもアラビア語より英語で生活している。その彼らが大いに慌てているという話である。フーシー派は、ザイド派というシーア派の中でもスンニー派に近いグループなのだが、一番古い十二イマーム派に近く、イラン革命をかなり意識した人々らしい。中田氏によると、イラン革命は、シーア派の革命だと言うと誰もついてこないのでこれは湾岸の腐った王政を倒す、正義の戦いであると言い、イスラム本来の平等を取り戻すという理論でやっていた、フーシー派は、こっちのほうの影響を受けているとのこと。

ここで、橋爪氏が湾岸諸国をボロクソに批判する。その表現がなかなか過激だ。「世の中にこれほど腐敗堕落した、とんでもない連中がいるのか、よくわかるのが湾岸諸国だと思う。彼らは人類の寄生虫で、イスラムの敵で、自分のことしか考えなくて、似非ムスリムの標本ですよ。」意外な程の過激発言で、私もびっくりした。その後も、湾岸諸国への具体的な批判が続くのだが、中田氏は、彼らがそもそも遊牧民で、家畜や奴隷をうまく使う術をもっていて、それで外国人労働者等をうまく使ってるのではないか、と多少弁護的する。しかもレンティア国家として、世界でも希な成功例でもある、とイスラム・アラブ文明の力を感じているとのこと。このあたり、湾岸論議が続くのである。なかなか白熱して面白い。大川周明の話なんかもでてくるし…。

さて、このイエメンのフーシー派。中田氏によると、サウジの下腹部にあたるので、ここにシーア派政権ができては一挙に全体が崩れる。そういう中でサウジのなかでシーア派が増えている。ISをやっつけるより先に、こっちからやっつけようと湾岸というかスンニー派が大慌てしているということらしい。(日本では、新聞はおろか、専門家も誰ひとりふれていない。)

中田氏はアラブの最も貧しい国が「アラブの春」でいったん崩れて、その揺り戻しと見ることができると分析している、のこと。ここで、さらに二人の対話はイスラムと政治の問題、近代国家の問題に突入していくのである。

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