2013年8月18日日曜日

NHKSP「緒方貞子」 深読み

NHK HPより
昨夜NHKスペシャル「緒方貞子-戦争が終わらないこの世界で-」を見た。1時間半の長い番組だったし、こういう良い番組ではすぐ感想を書かず、1日寝かすことにしている。本当に印象に残ったことがエントリーできると思うのである。

緒方貞子氏は言うまでもなく、UNHCRで高等弁務官として活躍し、JICA理事長も務めた女傑である。「人間の安全保障」という概念を開発に携わる人々にもたらした人物でもある。しかし、案外彼女の経歴やそのバックボーンを知らなかった。この番組は、その部分に力を入れていたと思う。

緒方貞子は、日本の閨閥でいうと、母方では犬養毅のひ孫であり、夫は緒方竹虎の三男にあたる。日本のエスタブリッシュメントの1人でり、それゆえ聖心女子の出身であるわけだ。ノブレスオブリージュ(ヨーロッパ貴族の誇りであり義務:貴族として尊敬される故に、人民の先頭に立って戦う姿勢)を彼女は聖心女子と父から得たように思う。彼女の父は、日中戦争時の香港総領事であり、平和を唱えた孤高の外交官でもある。彼女は、国際政治学者であり、日本の敗戦の理由を探った。結論的には、日本人の集団的責任回避であったようだ。(私も同感)大学で非常勤講師を務めながら、子育て中だった彼女に市川房江が、日本の婦人代表として国連に3カ月行くことを願いに来る。この時も父が、「行くと決めて、後のことは皆で考えればいい。」と背中を押す。以後、国連での積極的な発言が認められ、高等弁務官になるわけだ。彼女の高等弁務官時代は、東西冷戦直後で民族紛争が多発し、難民続出という困難な時期だった。

「難民は国外避難民」である。UNHCRはそういう定義で支援している。イラクのクルド人がトルコに入国拒否され、「国内避難民」となっていた。彼女は、部下の意見を辛抱強く聞いた後で、UNHCRの官僚主義を打破する。「UNHCRを必要としている人々がいる。後のことは皆で考えればいい。」という現場主義である。以後国内避難民にもUNHCRは支援の手をのばすことになる。またコンゴ民主共和国(当時ザイール)のルワンダ難民キャンプでの、国境なき医師団の離脱や治安問題では、ザイールの軍を使うことを強行する。彼女のリーダーシップ・実行力は、日本を敗戦に導いた軍や政治家の対蹠点にある。きわめて非日本的である。だからこそ、各地の難民キャンプ生まれた「サダコオガタ」という女の子が何人もいることになる。(アフリカでは、記録という意味合いで子供に様々な名をつける。飢饉とか干ばつとか言う名をつけて、子供の年齢でそれを記録に残すわけだ。とはいえ、彼女の人徳がそういう名前に残す行為を何人も呼んだのだと私は思う。)

ところで、NHKは何故8月17日という日に、この番組を放送したのだろうか。NHKに「ニュース深読み」という番組があるが、このことも深読みが可能だ。
第一は、緒方貞子氏の決断力を強く賛美していることから、今秋にも予定されている政治課題の決断を強く促しているように見えるのだ。
第二は、終戦記念日に必ず起こる中韓からの非難に対し、こんな凄い人もいるんだと日本人に自信を与えようとしているように見えるのだ。
第三は、JICA理事長を3月に退任し、組織に対して気兼ねなく放送できたこと。さらにすでに綬勲している文化勲章以上の綬勲の情報があるのかもしれないこと。緒方貞子氏ももう85歳である。

いずれにしても、緒方貞子氏は偉大である。ホント地球市民の代表のような人だ。ご健康とご長寿を心から祈りたい。

2 件のコメント:

  1. 僕もその番組、録画して見ました。偉大な人とは、良く歩く人だと僕は思います。博士論文を書くためにキーパーソンに直接会いに行き話を聞く、実際に紛争地に行き避難民の方たちと接して問題点を考える=現場主義。UNHCR時代に部下が緒方さんのエネルギッシュさに着いていくのが大変だった、という話も紹介されていました。
    坂本龍馬もよく歩く人でした。僕も、自分では他の人よりもよく歩く人だと思っていましたが、まだまだですね。特に今は、以前より活動範囲が狭くなってしまっています。

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  2. Lily君、コメントありがとう。よく歩く人か…。いい視点やね。

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