アラブの春は、リビアでもカダフィが退陣して内戦化、エジプトもムバラクが退陣して、民主化が図られ、ムスリム同胞団が政権を握ったが、クーデターで軍事政権化した。唯一民主化が軌道に乗ったチュニジアも独裁化の懸念が起こっている。シリアが内戦の泥沼にはまったのは、アサド政権が他のアラブ諸国のように退陣せず踏ん張って弾圧したからである。
このシリア内戦、アサド政権を支援したのは、ロシアとイランである。旧宗主国のフランスが、少数派である(シーア派のカテゴリーに属する)アラウィー派のアサド家を支配者に置いて間接支配しようとした姑息さが遠因である。イランが支援したのはそういう宗派対立が背景になる。一方、ロシアは地中海に唯一維持している軍港があるためである。反政府勢力を支援したのは、ロシアとイランの仇敵アメリカとスンニー派の盟主サウジである。トルコもスンニー派として協力的であったが、クルドが反政府勢力の一翼を担ったことから雲行きが怪しくなった。チェチェンもこの時はスンニー派の勢力として、アサド政府=ロシアに立ち向かっていく。(ウクライナ紛争ではロシアに協力したので手のひら返しに驚いた。)これに当事元気だったISが絡んで三つ巴の戦いになったのである。(上記パワーポイントの画像参照)
ともあれ、反政府勢力が勝利したことには間違いない。反政府軍の反転攻勢に、政府軍にはかなり厭戦気分が強かったようで、戦車や航空機も置いて逃げ出したり、首都防衛の軍はイラクへ逃走したようだ。
様々な関連記事を読むと、アサド政権を支援してきた国や組織がシリアどころではなくなったことが大きいようだ。ロシアは言うまでもなくウクライナ紛争で手一杯だし、すでに軍港は艦艇が一隻もいない。空軍基地も同様であろう。イランもイスラエルとの交戦、さらにイラン傘下のヒズボラやハマスもイスラエルとの戦いでかなり被害を出しているからだ。
ところで、私が危惧することがいくつかある。1つ目は、反政府勢力の中心がHTS(ハヤト・タハリール・アル・ジャーム)であること。アルカイーダ系のヌスラ戦線、ISなどの系列でイスラム復古主義の武装勢力である。欧米からはテロ組織の認定を受けている。ただ、現状はとにかくアサド政権打倒に結集しているようだ。この組織が、シリアを立て直すとしても、これまでの各国のアラブの春を見るに、容易ではないと思われる。そもそも、イスラム諸国では君主制が多い。民主主義国は多数派でない。マレーシアやトルコなどはかなり特殊な例である。大統領制などの政治体制をとっていても内実は、独裁制の国も多い。そもそもが、国家という法人の概念がないし、形式だけの場合が多いのだ。イスラム法と人定法の憲法の優劣の問題もある。HTSが、たとえ国連の選挙監視体制を要請し民主的な選挙をやるとしても、あれだけ多くの難民を出した状況下であるし、結局はスンニー派的な「力」がものをいうような気がする。
さらに難問がクルド人問題である。クルド人は当然、支配地域での自治、さらには独立を主張するのは目に見えている。この問題に敏感なトルコとどう接していくのか。トルコは、この問題に関しては軍事的にも引くことはないだろう。HTSはクルドと手を結ぶのか、トルコと妥協するのか。内戦の終わりが再度の始まりかもしれない。クルドもHTSも、トルコ本土に攻め入ったりしたら、国際法的にもNATOを敵に回すことになるわけで、リスクが大きすぎる。
おそらくアメリカもシリアの今後には深く介入しないのではないかと思う。ロシアが撤退して、親露アサド政権が倒れて万々歳だが、これ以上介入しても何も益はないからだ。ソマリア以来、アメリカはそういう動き(バクス・アメリカーナ時代の、世界の警察ではないという姿勢)をしている。旧宗主国のフランスとイギリスはWWⅠ後のサイクス・ピコ協定で、勝手に国境線を引いた関係上、クルド問題については重大な歴史的責任を負う立場にあると私は思うが、共に自国内の問題で汲々としている。沈黙を守るだろう。スウェーデンやドイツなどは、シリア難民による治安問題が過激化しているので、難民の帰国を促すだろうが、さてさてうまくいくだろうか。EUもなかなか意見がまとまらないし、シリアの今後を仲裁するのは、何処の国・組織の誰なのか、考えると暗澹たる気持ちになる。
仲介はやはりトルコのエルドアンしかないのかなあ。サウジもこのところ元気がないし…。あるいは、関係当事国でもあるトルコを排するのなら、アラブ連盟の出番かもしれない。私はキリスト教国が多い国連より、イスラム諸国の知恵に期待したいと思うのである。
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