2024年12月16日月曜日

人類史上最もやっかいな問題

先日、学院の図書館で、もう1冊借りた本は、「イスラエルー人類史上最もやっかいな問題ー」(ダニエル・ソカッチ著/NHK出版)である。「世界史と地理は同時に学べ」(山崎圭一著/SBクリエティブ)の備忘録の続編をちょっと置いて、この本についてエントリーしようと思う。

著者は、アメリカ・サンフランシスコ在住のユダヤ人。「新イスラエル基金」(パレスチナの人々の権利の保護も謳うリベラルな組織)のCEOで、実に中立的に書かれている。イスラエルとパレスチナの問題は、たしかに人類史上最もやっかいな問題である。かなり詳しく歴史を追って解説してくれている。まだ途中だが、これも備忘録的に、是非エントリーしておきたいと思ったのだ。

ディアスポラの時代、スファラディ(語源はヘブライ語のスペインを意味する”セバラデ”)は、北アフリカから南欧、中東、そして南米まで移住した。ニューアムステルダム(現NY)に初めて到着したユダヤ人はブラジルのスファラディで彼らはスペイン語を基にしたラディノ語を話していた。

アシュケナジは、スファラディに比して迫害を受け続け、最終的には東欧に落ち着いた。18世紀、ロシアとオーストリア=ハンガリー帝国に住んでいた数百万人のアシュケナジは、イディッシュ語(ヘブライ文字を使っていた)を話した。彼らは「ユダヤ人強制集住地域」に住むことを余儀なくされていた。現在のロシア西部、ベラルーシの一部、バルト三国の一部、ポーランドの一部にあたる。「屋根の上のバイオリン弾き」(原作はイディシュ語作家の小説「牛乳屋テヴィエ」)も、私の大好きなシャガールの絵画もこの地を舞台にしている。ちなみに、ユダヤ人が強制的に住まわされた”ゲットー”発祥の地は、ベネチアで、そこにあった鋳鉄工場をさすイタリア語にちなんでいるとのこと。(これは意外。)

18世紀のヨーロッパに吹き荒れた啓蒙主義は、ユダヤ人に希望を与え、ハスカラ運動という社会との順応とユダヤ教の律法や慣習を調整しようとする改革派ユダヤ教(アメリカで最大のユダヤ教宗派)が生まれた。しかし、19世紀末には、その希望が打ち砕かれる。ロシアでは、ボグロムや捏造されたシオン賢者の議定書など迫害が起こり、何百万人ものアシュケナジがアメリカに移住した。一方で、社会主義や共産主義に身を投じる者も多かった。ユダヤ人労働者総同盟(ブンド)はイディシュ語を話す社会主義者の大衆運動であった。少数ながら、パレスチナに戻ろうというユダヤ人のナショナリストもこの頃誕生した。…ブンドは、同盟を意味するイディシュ語であるらしい。ドイツ語ではブント。日本の学生運動でも共産同を意味し、有名なのでハッとした次第。

ところで、当時のパレスチナには崩壊しつつあるオスマン帝国の僻地で、現地のアラブ人に混じって約2.5万人のスファラディが、古代の4大聖地(サフェド・ティベリアス・ヘブロン・エルサレム)で信仰を守っていた。彼らは海外のユダヤ人コミュニティからの援助に頼っていた。1880年代、パレスチナに帰還を考えるユダヤ人が増加するのだが、1894年のドレフェス事件で、良識あるヨーロッパ人への信頼も破綻する。ブダペスト出身のジャーナリスト・ヘルツルが「ユダヤ人国家」でユダヤ人による民族自決というビジョンを提起した。シオニズムの始まりである。(ただ、ヘルツルは、パレスチナに固執しておらず、アルゼンチンやケニアなども検討対象にしていた。)

ここで、著者はシオニズムという語の複雑さ、多様性についてかなり論じていいる。シオニズムとは、イスラエルにユダヤ人の祖国を再建することを目指す思想であり、運動であるといえるのだが、ナショナリズムの時代の産物であり、他のナショナリズム同様、誇りや外国への嫌悪、優越感などの要素を含んでいる。シオニズムは、一枚岩ではなく、多くの見解に分かれていると著者は言う。次にその代表的なものを解説している。

1.左派の労働シオニスト。ユダヤ人国家における社会主義社会実現を提唱した。1948年のイスラエル建国以前および、その後の30年間を支配した。集団農場(キブツ)を創設し、土地と深く結びつき土地を耕して守る人々という新しいユダヤ人の出現を促すよう提唱した。

2.右派の修正主義シオニスト。労働シオニストの思想的ライバルっで、領土拡張という戦闘的福音を説いた。「大イスラエル」(聖書に記されたイスラエル王国:現イスラエル全土+ヨルダン川西岸+ガザ+レバノンの一部+ヨルダン全土)主義でアラブ人を服従させて共存させるという主張。1948年から1977年まで、右派は万年野党であったが、ベギン、シャミル、ネタニヤフらが首相となりイスラエルの政治を支配するようになった。

3.超正統派(シオニスト)。この世俗的な左派・右派は、国会で過半数を得るためには、超正統派の宗教政党(スファラディーやミズラヒム系のシャスとアシュケナジ系のユダヤ・トーラ連合)と手を組み連合政権をつくる必要があった。この超正統派の宗教政党は、ユダヤ人の宗教生活を継続的に支配すること、自分たちのコミュニティの資金確保には関心があったが、それ以外の国家的問題には特に関心がなかった。…超正統派は、生活保護と兵役免除で宗教学者的生活を守れている。たしかに彼らは、様々な理由で退避してきて、イスラエルにいるのだが、反シオニズム(例えば、イスラエル建国はメシアによってなされるべきで、人為的な建国は間違っているという主張)的な人が多い。

4.宗教シオニスト。ユダヤ人のイスラエルへの移住は、神学と運命の成就であるという信念から、六日戦争の後、特定のイデオロギーを持たなかったが、極右的、神秘的、民族主義的な方向にかじを切り、入植運動の教義と化した。現代イスラエルで最も強力な集団となった。

5.文化シオニスト。イスラエルの地は、土地や言語とのつながりが、ユダヤ人の文化や歴史にとって重要であるにすぎないとして、ユダヤ移民はパレスチナ人と共存できるする人々。政治参加していないので、彼らのビジョンは規範になり得ていない。

…実に興味深い内容なので長い引用が続いた。たしかに、シオニズムは、実に様々な視点によって語られている。これからの授業では、シオニズムを語る時、大いに注意しなければならないと思う。

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