2011年8月6日土曜日

ダサネッチの「コーヒーライフ」

コーヒーで身体を洗う母親
『遊動民』シリーズの第5弾を書こうと思う。ちなみに、このエントリーは、我がブログの200回目のアフリカ話でもある。今日は、佐川徹先生(私がいつもお世話になっている京大アフリカ地域研究資料センターの助教であられる。)の『殻がもたらす豊かな暮らし-エチオピア西南部のダサネッチ社会におけるコーヒー利用』について書きたい。

ダサネッチは、ケニアとの国境付近に居住する農牧民である。オモ川の氾濫を利用してモロコシ耕作も行うが、自らを「家畜の人々」と位置付け、牛・羊・ヤギなどを飼育している。100年ほど前から、ダサネッチの住むサバンナにもコーヒー豆が流通しだした。しかし帝政崩壊後、政府がコーヒー豆の国内流通を規制した故に、コーヒーの『殻』(豆を取った後に残った、外皮・果肉・内果皮の混ざったもの)のみが流通するようになった。(ダサネッチは、市場でこの『殻』をミルクやモロコシを売って得た現金で購入するらしい。ここにも市場経済の波が訪れているわけだ。)

『のどの渇きが私を殺す』とは、彼らが最もよく口にする言葉のひとつ。朝放牧に出す時間、昼放牧から帰り作乳する時間、再び放牧に出し戻す時間の一日三回、家の中で『殻』を調理し飲むのである。面白いのは、コーヒーの殻は再利用されることだ。一回使ったものを天日干しする。さらにそれを2日間天日干しし、火であぶり握りつぶして粉状にするらしい。飲む時は何も入れない。ただし、身体の調子が悪い時は、玉ねぎや生姜、チリペッパーを入れたりするらしい。ダサネッチは、オモ川の生水は飲まない。コーヒーは重要な水分補給源なのだ。さらに、『殻』は豆よりカフェイン含有量が多いらしく、疲労回復効果があるという。また乾季などでは、家の中で火を焚くのでサウナ状態である。そこで何杯もコーヒーを飲むので凄い汗をかく。これも身体にいいらしい。…なるほど。なるほど。
ダサネッチと佐川先生
ダサネッチの社会生活の中で、コーヒーが果たす役割は大きい。ダサネッチは他の民族同様、一夫多妻制だし、男性の権力が強い。家も男性エリアと女性エリアに区別されている。コーヒーを調理するのも当然のように女性の役目とされている。また、一人で飲むのもタブーだ。だから、家族や親せき、友人などが集まり、その家の夫人がふるまうカタチになる。コーヒーを飲む時には、最年長者には、ダサネッチの世界観(空・地上・地中で世界は構成され、それぞれ神、人間と家畜、死者が住む)に基づいた儀礼を行うことが求められている。霧状に吹き出す(空の神への儀礼)、腕を洗う(コーヒーで自らの腕にコーヒーを注ぐ:地上における豊かさを示す儀礼)、地に注ぐ(死者への儀礼)などを行うのである。ダサネッチの『茶道(コーヒー道)』とも言うべきか。年長者の権威を再確認させるわけだ。さらに結婚儀礼などの社会関係の媒介としてコーヒーは使われる。男性はコーヒーの殻をいっぱいに詰め込んで女性の家に向かうし、子供の名前をつけるのもコーヒーの場である。面白いのは、このような重要な位置(特に社会儀礼)を占めるコーヒーを作れるのは女性に限られているので、いくぶん女性の地位が高いらしいことだ。奥さんが、サボタージュすれば、儀礼が行えないのだから当然だ。

ところで、ダサネッチから少し南下するとサンブル人らの住むケニアである。ケニアでは、コーヒーではなく紅茶らしい。ダサネッチに言わせると、「味がない紅茶(劣った飲み物)に高い砂糖を入れて飲む彼らは、だから(現金を得るため)家畜を売らねばならず、ビンボーになる」のだそうだ。(笑)だが、最も笑えたのは、ダサネッチの人々、…実は凄い「猫舌」だという話だった。

この佐川論文、なかなか面白かった。オモ川という水が豊かな地域故に、ダサネッチの人々はコーヒーをバンバン飲んでいるわけだ。彼らの住んでる地域も、60年来という東アフリカの干ばつ被害の影響を受けている可能性が高い。今、彼らのコーヒーライフはどうなっているのだろうかと私はたいへん心配している。

佐川徹先生の紹介ページ(本日の画像も佐川先生のものです。)
http://jambo.africa.kyoto-u.ac.jp/member/sagawa.html

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