2015年3月23日月曜日

常岡浩介「イスラム国とは何か?」

ジャーナリスト・常岡浩介氏の「イスラム国とはなにか?」(旬報社・2月11日発行)を読んだ。常岡氏は、イスラム法学者中田考氏とともにイスラム国に実際に入って3度も取材活動をした人物である。

読後ノートとして、重要な論点を箇条書きで集約しておきたいと思う。中田氏の2著作と併読してイスラム国理解はさらに深まったと思う。ちなみに、常岡氏もムスリムであり、中田氏のカリフ制再興への深い理解の上で書かれている。

1.イスラム国がここまで大きくなった最大の原因は、アラブの春によって内戦化したシリアのアサド独裁政権の凄まじい住民虐殺(20万人と言われている)を見逃してきた国際社会にある。アメリカは、ロシアの化学兵器破棄の提案に乗ってしまい、アサド政権をシリアの正統な政権と認めてしまった。しかもイスラム国への空爆によって、反政府組織・自由シリア軍とも複雑な関係になってしまい、もはや泥沼化はさけられない。制空権をもつアサド政権は、今も「たる爆弾」を使って虐殺を続けている。

2.イスラム国がシリアとイラクで領土を拡大した理由は、真正面からアサド政権と戦おうとせず、他の反政府軍が解放した地域を、軍が移動後占領するという漁夫の利戦略をとっているからである。シリアで勢力を高め、イラクでモスルを攻略したことも大きい。だが、軍事力自体は決して強いとはいえない。

3.イスラム国の義勇兵の状況は、個々人によって様々である。自国でアラブの春が成功したので、シリアでもと駆けつけたエジプト人や、抑圧を逃れ、カンボジア・ベトナム・インドネシア・トルコ経由で参加したウィグル人、今すぐはロシアは倒せないが、ロシアが支援するシリアを倒すことでプーチンを追い詰めると言ったチェチェン人。フランスの移民出身者は、かなりフランスを罵倒する。「(仏人は)移民を人間と見ていない。」英国の移民出身者は「英国人はプライドが高い。紳士たる者(教養があるので)、ヘイトスピーチなど吐かない。ロンドンにはアルカイダのモスクも自由に運営している。だが、(おくびにも出さないが)誰よりも強い差別意識をもっている。」と語る。ヨーロッパの移民は貧困に喘いでいるが、イスラム国の給料よりは高い。だから、貧困=原因だとはいえない。ドイツ国籍のパレスチナ人は、ドイツを愛している、ドイツとは戦いたくないと言う。だが、欧米の正義は人定法(マン・メイド・ロー)で、その場その場の都合で変わる。正義ではない。このような欧米の正義に支配されている状態に納得がいかないと述べた。

4.イスラム教徒は、それぞれの場所にいても体は1つ。パレスチナやアフガンでは米国によってイスラム教徒が殺されている。その最中に米国と手を結ぶということは許されない。(3の最後のドイツ系パレスチナ人の言)…このコトバに、イスラム教徒同士でいくら争っていようとも、異教徒(欧米)との深い溝を強く感じざるを得ない。なお、イスラムの過激派組織の繋がりを、常岡氏は「勝手蓮」と比喩している。決して緊密な連絡をとっているわけではない。だが、最後はイスラム同士(スンナ派同士の、またシーア派同士の)の結合ははるかに異教徒より強いわけだ。

…なお、あれだけITを駆使して戦闘員募集をかけているイスラム国だが、現地(トルコ国境地帯以外)ではインターネットや携帯電話は通じないという。ローカル回線は止められているのには驚いた。日本で続く集団的自衛権は、このシリア・イラクの問題に強くリンクする可能性が強い。イスラム教徒の親日度は極めて高い。なぜわざわざアメリカと共に血と泥にまみれる必要があるのだろうか。イスラム教徒を日本は殺してはならない。そうなると、もう誰もこの一神教世界の相克を収めれない。改めてそう思ったのであった。

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