2010年5月16日日曜日

K老師に聞いた”ハーバード”


 先週の月曜日、私の隣席のK老師から、「日曜日の夕方におもしろい番組がありますよ。」と教えてもらった。NHK教育の『ハーバード白熱教室』という番組である。マイケル・サンデルという教授の授業を30分にまとめたものが2本。「あっとと言う間に見終わりますよ。」とのこと。老師の言われるように、難題なカント哲学やロールズの話だったが、判り易く、面白い。(とはいえ、さすがに西洋哲学の素養が必要。私もメモを取りながら見た…。)
 
 ハーバード大学は、MITとともにボストンの対岸にあり、。一応、私はハーバード大学を訪れたことがある。その意味では昨日の続編になる。素晴らしいキャンパスだった。生協にはハーバードグッズがあふれ、子供が出来たばかりの後輩にハーバードのヨダレかけを買ってあげた記憶がある。

 さて、番組の内容をかいつまんで説明すると、道徳形而上学原論を引用しながら、正義とは何かについての講義がまず最初にあった。カントは、経験をもとにした感性界と経験を越えた叡知界に分け、自由は叡知界のみに存在すると説いた。カントの言う自由は、道徳的自由であり、義務を自律として捉えたものであると説明した。(私は、仏教理論から、感性界は六道輪廻として置き換え、叡知界は四聖としておきかえれるよなあなどという感想をもった。)さて、教授は時折大教室に詰めかけた学生に論議をふっかけ、回答を迫る。さすがはハーバードである。凄い回答をする。K老師は、「きっとそれまでにテキストを読ませているに違いないと思います。」と言っておられた。私もそう思う。この問答はかなりハイレベルである。但し、アメリカらしく設問は現実的である。『殺人者が、君の友人を追って、君の家に入りこんできた。友人は隠れている。君は、ウソをつくことなく(すなわちカントの道徳律にしたがって)殺人者に対応したい。何とコメントするか?』といった設問で、カントの義務、自律を、結果を重要視する経験論的な功利主義と対立して考えさていく。必ず回答した学生の名を問い、授業で生かす。この回答は、およそ2つに分類された。明らかな嘘をつく場合、厳密にいえば真実を言う場合である。ここで、クリントン元大統領の不倫疑惑のビデオが流され、彼は厳密に言えば真実の回答をしていることを指摘し、大教室に笑いがこぼれた。

 後半は、契約の問題である。カントの正義から、これを継承したアメリカのロールズ(彼の政治哲学もセンター範囲なので必ず教える)の話になる。テーマは契約である。ロールズは、カントの仮説的契約と正義について、『無知のベール』という概念を提示する。何故なら、契約と言う政治哲学の基本概念の中で、道徳的善悪を明確にすることがかなり難題であるからである。政治は経験的である。教授は、自分の息子たちの野球カードの交換、インデイアナ州での車の故障と移動修理屋、あるいは妻の貞操の問題など様々な例を引き、学生に質問し、論理を積み重ねていく。

 いい授業だった。K老師は、「あんな授業、してみたいですねえ。」と言われていた。私は明日、K老師になんと答えようか。「お互い、あれに近いことやってますよ。」かな…。

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