2012年10月3日水曜日

『サラエボ・ハガダー』

Sarajevo Haggadah
今朝モーニングで、ふと日経の「春秋」に目が行った。思わずコーヒーを飲みながら、手帳に写してきた。是非ともエントリーしておきたい。

20年前、独立間もないボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボは、激しい民族紛争の焦点となっていた。砲弾や銃弾が飛び交い、街のあちこちが破壊される混乱の中、市内の図書館で保管されていた1冊の本が行方不明になった。「サラエボ・ハガダー」という。

ハガダーとはユダヤ教徒が過ぎ越しの祭りで読む冊子だそうだ。14~15世紀に制作されたとされる。「サラエボ・ハガダー」は、その時代のハガダーとしては画期的な美しい挿絵入り。人類の秘宝ともいうべき文化財だ。図書館が砲撃を浴びている最中、これを安全な場所に移して守り抜いた学芸員がいた。イスラム教徒だった。

実はこの本をイスラム教徒が救ったのは、この時が初めてではない。街がナチスの支配下にあった70年前、ユダヤ人を目の敵にしていたナチスに奪われないよう保管していた博物館の学芸員が命をかけて隠した。学芸員の名前をデルヴィッシュ・コルクト。持ち前のすぐれた語学力がナチスの手を逃れるのに役立った。彼はナチスの迫害で家族を失くした娘を自宅にかくまい、安全なところへ逃亡するのを助けたこともある。宗教や民族の違いを超えた人と文化の深い愛情に打たれる。

…少しだけ原文を割愛しているところもあるのだが、およそこのような話である。イスラエルに実際行って、いくつかの博物館で、ユダヤ教の美しい書物を見せてもらった。まさに人類の秘宝と言ってよい。装飾的なヘブライ文字を書いているビデオも見た。素晴らしい技術だった。一方で、ユダヤとイスラムの深い溝も体感してきた。しかし素晴らしい文化財は、宗教や民族を超えることも学んだ。

多文化共生の難しさを強く感じつつも、結局は人と人なのである。互いを理解する余裕と教養こそが重要だと思うのだ。そういう地球市民教育をしていきたいと改めて思った次第。今日から、週1回の総合的学習で、一神教講座が開始された。1年生で私が担当していないクラスの選択者が対象である。

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