2025年8月2日土曜日

教材研究 HDIと4つの罠

https://globalnewsview.org/archives/987494368
教材研究を進めている。HDIのランキングを記す提出課題を元に、次にポール・コリアーの「最底辺の10億人」にある4つの罠(紛争の罠・天然資源の罠・内陸国の罠・劣悪なガバナンスの罠)と対比しながら進めていくことにした。

紛争の罠については最新の世界紛争地図をパワーポイントに示しながら解説しようと思う。ただ、深入りすると莫大な時間を要するのでプリントでは最小限の記述に止めた。紛争の原因は、民族問題、エスニックグループの勢力争いや、特にイスラム復古主義の武装組織などによる宗教対立も多いが、根底には経済格差問題と次に述べる資源の罠による利権も絡んでいることが多い。

…これはあくまで私の感じ方であるが、独立後内戦に陥るのには、少し宗主国の法則性のようなものがあるのではないかと思う。イギリスの間接統治は、独立戦争(インドやケニアのマウマウ団など)以外では、それなりに独立後の移行はうまくいったといえる。フランスの直接同化政策よりはマシだった。ひどいのはポルトガルで、アンゴラもモザンビークも東ティモールも悲惨だったと思う。まあ、こんな話を授業ではしないと思うが…。

天然資源の罠については、いくつかの視点で語る。まずはモノカルチャー経済の危険性。顕著な例はザンビアの銅生産で、国際価格の変化で大きな影響を受けること。2点目は、内戦や腐敗が進むこと。ここでは、特にコンゴ民主共和国を取り囲む国々が関わる、タンタルなどの紛争鉱物について語ることにした。3点目は、植民地時代の影響。途上国の鉱業のレンティアはの多くは搾取されていること。ただ、うまく国策会社に移行した例も挙げておくことにした。サウジやUAE、マレーシアもそうで、ノルウェーのような政府系ファンドで儲けている場合も紹介しておきたい。さらに、政治経済の学習との関連で、オランダ病についても述べることにした。

内陸国の罠については、ジェフリーサックスのスピルオーバー(隣国の経済が1%成長するとその隣国は0.4%成長するが、内陸国は0.7%も成長する。)の論理を使う。高校のレベルを少し超えるが、これもまた私の授業らしいところ。(笑)ウガンダとスイスの状況を比較しておきたい。

劣悪なガバナンスの罠については、まず「ガバナンス」という高校生には聞き慣れない語句の解説から。パワーポイントでは、国際NGO/Transparency Internationalによる世界腐敗認識指数の地図を見せ、次にガバナンスが悪いと、インフラや企業の設備投資の資金が海外から入らない。そのためには、金融面と法的整備が必要であること。しかしながら、デモクレイジー(ポール・コリアーのデモクラシーをもじった造語)が行われ、専制的・独裁的な政府が生まれていること、さらに「情の経済」で血縁・地縁重視の官僚主義が腐敗を高めることを説く。

https://www.afpbb.com/articles/-/2521113
次のプリントでは、世界腐敗認識指数の上位国と下位国の表をつくってみた。またまたこの表にHDIの順位を入れていく作業を入れたいと思っている。面白いのは、下位(腐敗度がひどい)の国は、HDIの順位に近い。南スーダン、ソマリアが最下位2カ国であるのはHDIと同じ。ここに赤道ギニアやエリトリア、トルクメニスタン、タジキスタンといった独裁国家が顔を出してくる。意外なのは、上位国にウルグアイ(13位)とブータン(18位)セーシェル(同18位)といった国が日本(20位)より上位にあることだ。

…ウルグアイは、バスク系のホセ・ムヒカ元大統領(報酬を財団に寄付して月$1000強で生活していた世界一貧しい大統領と呼ばれた人物。)の伝統が生きているようだ。ブータンも文化や価値観から決して意外ではない。セーシェルは、アフリカで、モーリシャスを抑えてHDIの順位が最も高い国。1993年以降、複数政党制をとり、大統領も直接選挙で選ばれるガバナンスも良好である。こういった発見を生徒諸君にもして欲しいな、と思う。

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