2022年8月29日月曜日

マレーシア政治体制論を読むⅠ

独立記念日のムルデカ広場での軍のパレード
https://www.go-malaysia.info/latest-news/nationalday-malaysiaday
 PBTのF40のOGであるJ君に贈呈してもらった「民主主義の自由と秩序ーマレーシア政治体制論の再構築」(鈴木絢女著/京都大学出版会)を読み始めた。著者の経歴を調べて驚いた。慶応大学法学部政治学科卒で東大の院に進み、博士号習得。マラヤ大学でボスドクフェローの後、福岡女子大学の講師を経て、現在同志社大学の准教授だろうだ。東大以外すべて私の教え子と関わりがある。この本は博士論文を加筆したもので、当然ながら完全なる専門書である。(というわけで需要が少ないゆえに高価である。J君に深く感謝。)

この本の副題にあるように、マレーシアの政治体制をこれまでの学説を批判しながら、ナジブ政権前までの様々な憲法改定を中心に論じている内容である。マレーシアに滞在し、社会の教師として憲法や政治体制の研究をしてきた私にとって、実に興味深い内容である。初回の今日は、読み進んできた中から、独立憲法についてエントリーしていきたい。

イギリスは植民地時代、マレー人に対して農業や行政機関への就職を奨励、国内の穀物生産と現地官僚の供給源とした。華人は錫鉱山労働者や小規模鉱山の経営者か商人、インド人はプランテーション労働者や商人といった大まかな棲み分けが出来上がり、それぞれの職能団体が形成されていた。このような構造の中、民族別の利益表明の仕組みがベラ州やセランゴール州で各民族代表の諮問機関が制度化され20世紀には他地域にも広がった。やがて、独立が現実味を帯び、民族ごとの政党が成立する。1946年マレー人貴族層と公務員は、統一マレー人国民組織(UMNO)を設立。19世紀以降の移民に対する市民権付与、マレー人に対する公共セクターでの雇用機会の優先的分配や土地保有に典型的な積極的差別、スルタンの宗主権の否定を、イギリスが「マラヤ連合案」として提示したことが契機になっている。結局、両者の話し合いの結果、経済活動、雇用、教育、土地保有におけるマレー人の特別の地位とスルタンの宗主権を認め、市民権付与の条件として15年間の滞在、恒久的定住を宣言すること、マレー語の能力を有することを認めた「マラヤ連邦協定」に変更された。

この動きに他の民族も近代政治結社を結成する。1946年にはマラヤインド人会議(MIC)が、さらに1949年には、マラや共産党(CPM)に対抗勢力として、マラヤ華人協会(MCA)が植民地政府の肝いりで結成された。UMNOとMCAは選挙協力を行い、1952年のKLの市会選挙に勝利。イギリスに連邦議会選挙の早期開催を迫った。1954年の選挙で、UMNO・MIC・MICで構成する連盟党(Alliance Party)は自治拡大と憲法委員会の設立、マレー人と非マレー人の利益と権利保護を公約に51/52議席を獲得した。

連盟党による憲法委員会の設立要求は、1956年から、ライト委員会として実現した。イギリス、オーストラリア、カナダ、インド、パキスタンなどのイギリス連邦の法学者、官僚、裁判官により構成された委員会が、連盟党の提言を考慮して憲法草案を起草、イギリス政府、連盟党、スルタンで構成される作業委員会における修正を経て独立憲法が成立した。

独立憲法は、イギリス本国に範をとり二院制や権力分立を特徴とする国家機構を規定した。ただし、民族ごとに権利を規定し、また議会に対して基本権に介入する権限を与えるという特徴があった。制定の過程で最も論争となったのは、民族出自に由来する権利、具体的には、市民権、言語の学習・教授・使用、マレー人の特別の地位であった。市民権については、結果的に二重国籍は認めない、属地主義で市民権を先んじて10年間滞在者に与えることになった。言語については、マレー語が国語であり、タミル語、中国語の私的領域と非公用目的での使用は保証されたが、議会での使用は禁止、英語は公用語として10年間通用、以後は議会で審議という妥協がはかられた。マレー人の特別の地位につては、暫定的なものという共通理解があったようだが、憲法には恒久的な権利のように明記されている。

…私は、少なくとも3・4年前の連邦憲法を読み、考察した。だからこそ容易に読み進むことができる。マレーシアの政治史の本も何冊か読んでいたので知っている話もあったが、ライト委員会の話は初めて知った。興味深い。上記の独立時の憲法の名残は特に市民権の規定にあるように思う。マレーシアならではの規定で、かなり長くて読んでいて閉口したのを思い出す。

明後日の8月31日はマレーシアの独立記念日である。タマンデサ上空に訓練の為の国旗をぶら下げたヘリは飛んでいるのだろうか。…今日はここまで。

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