2017年3月9日木曜日

日経 米国保護貿易批判

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IBTのO社長から、毎日、日経のお下がりを頂けるようになって大変助かっている。特に「経済教室」は、いつもながら勉強になる。政治経済の授業でこう教えたらよいというヒントになることが多い。たとえば、7日付けの「日米貿易摩擦は回避できるか(下)」赤字相手国の批判不適切と題した、慶応大学の清田教授の「トランプ政権による保護貿易化」の問題点の整理は、実にわかりやすかった。備忘録的にエントリーしておこうかと思う。以下は、その要約である。
思考実験として、ある国が関税の全くない無税の状態から、関税により貿易を制限する状態へと移行するケースを考えてみる。この時貿易を保護する効果は理論的に3つに分けられる。第一に保護を通じて自国の生産者の生産を維持する効果。自国の生産者は激しい競争を回避できる。このため、生産者にはプラスの効果がある。第二に、関税収入を得る効果。輸入をする限り、その国には関税収入が生じる。これもプラス効果である。第三は、保護された製品の価格が上昇する効果である。第一の自国の生産を維持する背後には関税を通じた価格の上昇がある。製品価格上昇の影響を受けるのは消費者で、これはマイナス効果になる。
一般に、この消費者のマイナス効果は、生産者と関税収入へのプラス効果を上回る。(その例として、清田氏は日本の自動車産業を関税で保護した場合を想定して説明している。自動車産業に係わる人も多いが、自動車を利用する人の方がもっと多いからだ。)このため、関税による保護は、自国の生産者が得る便益と関税収入を、全て消費者に還元したとしても、一国全体としてはマイナスになる。
しかも、企業のグローバリュー・チューン(国際的な価値の連鎖)の拡大により、自国の子会社から部品や完成品の調達が関税によって制限される。それは結果的に生産者に対してもマイナスの影響を与えかねない。同様のロジックは、関税だけでなく、輸入量の制限や輸出に対する補助金などの他の貿易政策にもあてはまるので、保護貿易には問題があるとされている。しかも、貿易には相手国が存在する。その相手国が報復をする可能性もある。1929年の世界大恐慌からWWⅡは、この保護貿易政策に起因している。

貿易に関してもう一つ重要なことは、一国全体の貿易収支が赤字は、必ずしも通商上の問題ではないという点。説明を簡単にするため、貿易収支と経常収支を同じものとする。貿易収支は輸出-輸入である。そしてGDPを支出からとらえた場合、GDP=消費+投資+政府支出+輸出-輸入と表すことができる。ここで、経済全体の税を除いた所得(可処分所得)は消費か貯蓄に回ることに注意すると、GDP=消費+貯蓄+税と表すこともできる。この二つの関係から、消費+投資+政府支出+輸出-輸入=消費+貯蓄+税となり、輸出-輸入=(貯蓄-投資)+(税-政府支出)という式が成り立つ。この意味は、近年の米国のように、政府支出が税収を上回る財政赤字の場合、それを上回る貯蓄超過がない限り、貿易収支は赤字になるのは必然ということになる。貿易政策と、国内の貯蓄や投資に影響を与えるものではないので、貿易収支にも影響を与えない。つまり、貿易収支が赤字だということは、政府部門を含めた国内の貯蓄と投資の問題だということになる。

トランプ政権が、日本や中国に対し、貿易赤字だ、不公平だというのは明らかな間違いである。日本も中東諸国やオーストラリアに対しては貿易赤字である。資源を輸入する必要のある日本にとって輸入超過になるのは自然である。リカードが比較優位を唱えて、今年は200年の節目だそうである。貿易は「ゼロサム」ではなく「プラスサム」であるという基本概念を理解し、保護貿易化が招いた悲惨な歴史を繰り返してはならない。

…非常にわかりやすい保護貿易批判論である。米国内の構造問題に起因する問題を貿易赤字国に転嫁していることが理論的にはっきりする。嘘をつくのが大好きな大統領でさえ、これくらいの経済理論は理解できるのではないか、と私は思うのだが…。

ちなみに、今日の画像に使ったポーランドボールは、アメリカの保護貿易を皮肉ったもので、かなり面白いものです。興味のある読者の方は是非本編をご覧ください。
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