2011年5月21日土曜日

アフリカ経済の接合理論

室井論文の資料から
土曜日は、自宅でアフリカ関連のWEBなどを見て勉強することにしている。前任校では、机上のPCにインターネットが無線LANで接続されていたのだが、H高校ではそういうシステムがない。正直不便なのだが、職員室の数台の共用PCで、各分掌や各教科の共通フォルダがネットワークとして構築されているので、情報の保全上の問題なのだと思う。ともかく、土曜日は自宅にいる時は思い切りWEBに浸るのである。(笑)

さて、NIRA政策レビューというPDFファイルを見つけた。アフリカ開発経済学の峯陽一先生や、平野克己先生の論文も載っていて、おおっという感じである。今回は、専修大学の室井義雄先生の「アフリカ問題への視座」という論文が特に印象に残った。詳細は、WEBページを参照されたい。
http://www.nira.or.jp/pdf/review33.pdf

室井論文では、40年以上も前の人類学者の分類(市場なき社会・周辺的市場をもつ社会・市場法則と価格決定に支配された社会)を引用して、アフリカの社会構造を見るとき、今なおその示唆するところは有効であるとする。高校生に説明するように、平たく言えば、資本主義がきっちと成立している地域、資本主義と全く関わらない自給自足の地域、そしてその中間地域に分類できるというわけだ。
室井論文では、ここで「接合理論」を持ち出す。本来は、生物学や材料工学、音声学などの概念らしい。社会科学的に読み替えて、「審級」「生産様式」「社会構造」という三段階で分析する。「審級」という語も、始めて聞いた。分析上の第一の水準のことらしい。調べてみると三審制などの審議するレベルといった意味で、そもそも法律用語から来ているようだ。社会科学も、人文科学も自然科学も、学問の世界では、こういう理論の相互乗り入れが盛んに行われている。現場の高校教師から見るとはるかに遠い世界であるが、こういうコトバにふれることは重要だと私は思う。ともかくも、「審級」である。室井論文では、共同体土地保有を経済的審級、ムスリム独自の政治機構を政治的審級、親族関係は社会的審級としている。これらの諸「審級」の「接合」から、「生産様式」が、資本主義的生産様式や非資本主義的生産様式を決定する。そこから第3の分析点である「社会構造」がある。
なるほど。たしかに、下部構造(経済)が上部構造(政治・文化等)を決定するという、マルクス経済学の、というより一般的なセオリーをある意味、逆転してしまっている。なかなか面白い。

このような「接合」という視点でアフリカ開発経済学を見ると、国際支援のあり方を抜本的に見直さなければならないという結論が出てくる。アフリカのそれぞれの地域は、たしかにかなり資本主義的なナイロビのような場所だけではない。ブルキナのワガドゥグのような資本主義的でもあるが、非資本主義的な部分を併せ持つ、フォーマルセクター(正規の商業活動)とインフォーマルセクター(非正規の商業活動)の接合したトコロもある。牧畜民の住む地域では、非資本主義的な社会構造である。これらを一律に考えて様々なインフラ整備を行っても効果がうすいというわけだ。たとえば、ナイジェリアのラゴスに、巨大な産業廃棄物処理工場を建設するより、小規模なバイオ式のゴミ処理機のほうが、燃料問題やゴミの回収の不備などを考えれば、はるかに有意義だというのである。同感である。最後には、貧困問題は、経済学だけでなく、ガバナンスの正常化へ向けた社会学や政治学的なアプローチが重要と結んである。…なるほど。

かなり難解な論文ではあったが、下部構造→上部構造という定説をある意味覆す「接合」という理論、なかなか面白いと思った次第。

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