2016年11月26日土曜日

佐藤優「大国の掟」を読む。

先日、ちょっとエントリーしたが、佐藤優氏の新書(NHK出版新書/本年11月10日発行)を帰国時に1冊買った。「大国の掟」という、まあ佐藤優本らしい表題である。(笑)昨日のエントリーとは異なり、刺激的な新しい発見というか、佐藤優氏の蘊蓄の凄さというかが、すでに第1章だけで満載である。新しい本なので、あまり内容を詳細に書くことは避けたいと思うのだが、およそ、トランプ現象と英国のEU離脱についての共通点、相違点について見事に論理的に述べているあたりは、さすがである。

海洋国家としての英米の地政学的スタンス。したがって、大陸と関わりたいときに関わるというフリーハンドを持っていること。モンロー主義と光栄ある孤立という世界史的な視点で見ると、トランプのおよそ破壊的な言い方を洗い流していくと、結局は伝統的な孤立主義に行きつく。英国のEU離脱もまた同様だ。

面白いのは、相違点である。フランスの人類学者・トッドの提唱する家族システムから見た民主主義論が面白い。父子の関係と兄弟姉妹の相続関係によって世界を8つのタイプの家族型に分類、それぞれの家族型によって中心的なイデオロギーを規定するという理論。地中海ヨーロッパ、カスティリアからパリ盆地では男女の差なく平等相続で、「平等」を最も重要な価値とするデモクラーの概念が生まれてきたのだという。それに対して、英・独・日では伝統的に特定の一人がすべての財産を相続する。したがって、相続できなかった子供への何らかの補償が必要となる。構造的に弱い立場に置かれた人間を社会システムとして救済するアファーマティブ・アクションが作用する。すなわち、社会的不平等が存在することが前提となり、これらの地域では、社会民主主義的な体制が好まれるわけだ。

で、アメリカは、英国の伝統に従い、人間には差異がある非平等社会であったが、ネイティブや黒人奴隷の存在によって、白人間より大きな対立軸が生まれ、白人間の差異が解消されたというのだ。若干、私には異論もあるけれど、トッドの理論は参考になる。要するにアメリカのリベラル・デモクラシーは「白人社会」のものであるというわけだ。

また啓蒙主義がヨーロッパで結局のところWWⅠを引き起こし、人間の理性への懐疑と、情念への回帰というロマン主義の時代ををアメリカは経験していないこともアメリカという国の精神性を語るひとつの視点だという事、さらにプロテスタント神学者のインホールド・ニーバーの「光の子・闇の子」(1944年)の敵と味方をはっきり分ける二元論は、多くの歴代米大統領(オバマも含めて)に引用されているらしい。…これは、極めて単純明快なプラグマティックな神学理論である。トランプの暴言らしき暴言は、これまた洗い流していくと、そういうアメリカの伝統的な部分に行きつく。

これまでに何冊も佐藤優本は読んでいるので、新帝国主義という発想もよく理解しているつもりだ。経済的な新自由主義と新帝国主義の絡み合いも実にわかりやすかった。やはり、何冊か佐藤優本を読んだうえでという条件付きで、お勧めの1冊かなあ、と思う。

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