2011年12月17日土曜日

行かずに死ねるか!続編を読む

私は、沢木耕太郎をはじめとして、蔵前仁一や下川裕治などのバックパッカーの旅行記に目がない。地理の教師でもある私は、教材研究の貴重な宝庫だと思っている。本屋で文庫本を見つけると、すっと手が出てしまう。そんな貧乏旅行作家の中で、『行かずに死ねるか!』という自転車で世界一周した旅行記は、大きな印象を与えた本だ。その続編を先日見つけて、読み終えた。(最後まで読むのが惜しくてずっと置いていたのだった。)タイトルは、「いちばん危険なトイレといちばんの星空」-世界9万5000km 自転車ひとり旅Ⅱ(石田ゆうすけ 幻冬舎文庫22年7月発行)である。

この本は、著者が82カ国を7年半かけて回った中で、まことに個人的に様々なカテゴリーの中から世界一を選んで書かれたエッセイである。本人もそれが普遍的でないことを何度も述べている。著者の文章は決して名文とはいえないが、普段着っぽくて肩が張らず私は好感をもっている。いくつか印象に残った部分を紹介したい。アフリカ好きの私としては、どうしてもアフリカの話に偏傾することをお許しいただきたい。

タイトルにもなっている世界一危険なトイレとは、ブルキナファソのトイレらしい。小さな村の食堂のトイレ。それは日干し煉瓦で三方を囲っただけの穴もないものだった。しかも排泄物の痕跡もない。開始直後、ドスドスドスという重い足音が近づくのだ。なんと巨大な豚である。しかも普通の豚の2倍はある巨体に長い牙。実行中、石を投げると言うディフェンスが必要。終了直後、突入した豚は…。

ブルキナファソはムスリムが多いが、豚(アルジェリアのらくだ)を食べることは以前このブログでも書いた。(10年7月27日付参照)著者が食べた屋台の豚肉は、上記の理由により凄い匂いがしたそうな。ちなみに、私が食べた”アルジェリアのらくだ”は、アメリカの豚の本場アイオワ州のスペアリブと同じくらい美味しかったのだが…。

ガーナの屋台料理で、ぶっかけメシといっていい『リソース』は、残念ながら世界一メシがまずい国に登場する。なんでもパーム油が悪く、油粘土みたいな匂いで、吐きそうになるのを大量の唐辛子の辛さが脳天を炎上させるのだそうだ。ガーナ人にはものすごくよくしてもらったので、何度も申し訳ないと記されている。で、アグラのチョコレートハウスというビルの喫茶店のアイスココアは絶品だとか。これを試すだけでもガーナを訪れる価値ありとのこと。

なるほど。私も西アフリカ特有のぶっかけメシ何度かブルキナでいただいた。正直、あまり旨いものとはいえない。でもミレットのいくら食べても空腹感が去らないメシよりはいいかも。

著者の一番好きな場所は、ブラックアフリカなんだそうだ。ケープタウンからなかなか離れられず、「この地の引力はなんなのだろう」と思ったと書かれている。少し引用したい。
『テントを張って、褐色の大地に沈む夕陽を見ていると、これまで感じたことのない心の平穏を味わうことがある。体の底にこびりついていた汚れがはぎとられていくような錯覚がある。風が吹き、サバンナの草原が揺れ、動物の群れが草をはみ、人々が屈託なく笑い、裸の子どもたちが褐色の大地を走って追いかけてくる。そしてそんなものたちを包みこんでいる、透明感にあふれた空気。それらがすべてがアフリカではやさしく感じられた。』

いい。著者の言う『透明感あふれた空気』という表現がいい。自転車に乗って世界を回ると、そういう『空気』を肌で感じれるのだと思う。前作『行かずに死ねるか!』と合わせて、お勧めの1冊である。

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