2015年11月28日土曜日

毎日 テロを超える「贈り物」

毎日の今日の朝刊に作家の柳田邦男氏の「深呼吸」というコラムが載っていた。パリの同時多発テロで妻を亡くしたジャーナリストのアントワーヌ・レリスさんが、フェイスブックに投稿したテロリストへのメッセージが大きな反響を呼んでいることを受けたものだ。

「怒りで憎しみに応えるのは、君たちと同じ無知に屈することになる。」「君たちを恨まない、君たちに憎しみの贈り物をあげない。」といった確固とした理性を発揮し、反報復の意思を表明したものだ。さらに「(残された)幼い息子を殺し合いに走らないまろやかな人間として成長させることのほうが大事。」だと。

このあたり、フランス・インテリがもつ理性主義の伝統が生きていると私も強く感じる。実際、湾岸戦争に始まる新たな報復主義に反対するフランス人は多かった。京大の山村信一教授が「憲法9条の思想水脈」の中で国策としての(侵略)戦争を排除する非戦思想は、17世紀から18世紀に生まれ、フランス革命による1791年憲法で具体的にうたわれおり、思想史の中で醸成されてきたものだと明らかにしている。レリスさんの反報復主義のメッセージは、このような思想史の水脈上にあるという話だ。

…こういうフランスの理性主義もまた大いに賛嘆すべきものだと思う。

…このコラムで、私が特に印象に残ったのは、柳田氏が翻訳したというフランスのイラストレーターの絵本の話だ。湾岸戦争直後に制作されたもので、「ヤクーバとライオン」シリーズの「Ⅰ勇気」「Ⅱ信頼」である。アフリカの奥地の村では、成人の日を迎える若者はライオンと1人で戦い倒せば、名誉ある戦士として賞賛され隊列に加えられる。ヤクーバは、やりを突きたてようとするライオンから問われる。「わしを殺すことが本当の名誉なのか。もうひとつの道がある。殺さないことだ。そのとき、ほんとうに気高い心をもつ人間になれる。どちらを選ぶのか。」結局ヤクーバはライオンを殺さず帰り、村八分に等しい扱いを受ける。フランスにおける非戦思想のひろがりを示している作品だという。

…この話、私は少しだけひっかかるのだ。おそらくマサイを題材にしていると思われる。もちろん絵本だからフィクションであるのだが、マサイがライオンを倒すのは、遊牧民として家畜を守るための必要な技の習得である。そのあたりは、絵本に書かれているのだろうかと思ってしまう。ここに書かれているフランスの非戦の思想は大変結構なものだが、ヨーロッパ優位の高慢さを感じてしまうのだ。レヴィ=ストロース言う、「西洋中心主義への楔」を打っておきたい。

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