2015年1月24日土曜日

京大公開講演会'15 1月

”寒椿”の後方に 京大稲森財団記念館
久しぶりに、京大の公開講演会で稲盛財団記念館に行ってきた。「アフリカの潜在力を活用した紛争解決と共生の実現に関する総合的地域研究」の一環として、白戸圭一氏が講演された。今回の講演のタイトルは「現代アフリカの暴力を考える」である。先日、我がクラスの男子生徒が、白戸氏の書かれた新書を持っていて驚いた。進学先のT大学の課題図書なのだという。

白戸氏は明快な解説をする方だった。元毎日新聞の特派員で、現在は、三井物産戦略研究所の主任研究員をされている。白戸氏は、現在の職場を「満鉄調査部のようなものです。」と冗談で言われた。私は、見事な比喩であると思ったし、そこから話に引き込まれたといってよい。満鉄調査部は、日本の満州経営のシンクタンクである。植民地経営という当時の時代背景はさておき、優秀な分析者・研究者が集まっていたまれにみる魅力的な組織だ。日本の商社も、グローバルなビジネス展開のための、こういうシンクタンクを組織しているわけだ。白戸氏の冗談は、あくまでシンクタンクの側面を強調されたものだろう。

さて、白戸氏の講演は2部形式で行われた。「蛸壺的に深めていくと全体が見えないので、まずアフリカ全体を素描したい。」ということで、人口動態、資源による経済成長の状況、農民が多いアフリカの現状などについて、グラフとデータで説明された。もちろん、こういう話は、アフリカ開発経済学の基礎なので、私にとっては周知の話である。

面白かったのは、サブ=サハラ・アフリカのGDP総額と原油価格の相関である。グラフ化してみると、かなり相関性が高い。相関係数で見ると、サウジが0.9755、ナイジェリアは0.9718、サブ=サハラ・アフリカ平均では、0.9583と極めて高い。世界平均は0.8651、日本では0.5892である。講演後の質問で、産油国以外の国も影響を受けているのはなぜかという質問が出た。簡単に言えば、スピルオーバーであるが、白戸氏は、この経済用語を使わず、明快に説明されていた。もうひとつ、第1部で面白かったのは、ナイジェリアのGDPが東京都とほぼ同じ経済規模であること。同様に南アが大阪府、アンゴラが静岡県、スーダンが福島県、ケニアが鹿児島県、エチオピアが富山県といった具合だった。こういう比較は面白い。以前、ブルキナファソの財政規模が東大阪市と同規模だという事実を調べたことがあるが、生徒に伝える際には極めて有効だ。

さて、第2部、いよいよアフリカの紛争とテロについてである。テロリズムの定義はかのアメリカの国務省と国防省でも異なっているほどで、難しいわけだ。時間軸で見ても差がある。近代最初のテロは、ジャコバン派による国家テロであった。権力側から行われた。WWⅡ以前は、反植民地闘争。反権力闘争などで、ベクトルが逆になる。サラエボ事件や伊藤博文暗殺などが代表的である。また、権力側からのテロもあった。ソ連の粛清や日本の軍部によるテロなどが代表的である。これらは、共に非無差別な要人テロである。WWⅡ以降は、民族解放や新左翼などのテロで、明確な政治的目標があるが、無差別で不特定多数の民間人も標的になった。冷戦後は、さらにより無差別となり、独自の価値観をもつようになる。攻撃側については正当かもしれないが、被攻撃側からはテロとなったりする。紛争との相違については、目的においては紛争が国家権力掌握や分離・独立など現実的であるのに対し、テロは独自の思想に基づく世界の具現化で、理念的な場合が多い。規模や領域支配、大衆との関係、攻撃の目標、相手に与えるダメージなど、表で対比すると相違がよくわかった。

さて、アフリカも1990年から2000年代には、いくつか紛争があったが、現在は紛争は極めて少なくなっている。紛争が終結後、宗主国や国連のPKOによって、多くの武装勢力は政党化した。武装を解かない勢力などは、あまりメディアで報道されなかったが武装ヘリまで動員して、かなり駆逐されたらしい。政府も治安維持のできる協力な軍や警察をもった。しかし、生き残った武装勢力は、この「非対称性」の中で、テロリスト集団化せざるを得なかったのではないか、と白戸氏は仮説を立てる。テロは、非対称性(強い政府に対し、圧倒的な弱者)を強いられる故に起こる。さらに、アフリカ各国が経済成長したといっても雇用創造性が低い故に、格差が進み、テロリストの再生産が進んだのではないかというわけだ。テロは、少数派の暴力であり、弱い側からの戦争なのだ。

最後に、ボコハラムの話が出てくる。白戸氏は、ボコハラムは、最初今ほど暴力性をもっていなかったと言われた。反対に、ナイジェリア軍の過剰なまでの掃討作戦で肥大化したとも。ナイジェリア軍は情報収集を行わず、かたっぱしから攻撃したようだ。これによって多くの関係ない人々が殺された。軍に反発した多くの若者がボコハラムに入ったらしい。創始者のユスフはリンチのような処刑をされた。これも、ナイジェリア政府にはマイナスに働いた。今や、ボコハラムは、刑務所を襲い凶暴な受刑者をリクルートした犯罪者集団になっている。だから、白戸氏の感覚では、イスラム過激派というのは正しい認識ではないそうだ。

現在のアフリカの紛争とテロについて、明解な解説をしていただいたと思う。なかなか興味深い話で、「アフリカの潜在力を活用した紛争解決と共生の実現」を考えるうえで、極めて有効な前説的講演であったといえる。

白戸さん、貴重なお話をありがとうございました。また京大アフリカ地域研究センターのみなさん、お世話になりました。

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