2012年1月18日水曜日

新JICA理事長の「新しい中世」

緒方JICA理事長の後任として、東大の副総長の田中明彦氏が4月から就任するというニュースが流れた。どんな人物なのか少し調べてみた。かなり優秀な人らしい。浦和高校(佐藤優の出身校だ)から東大の教養学部で、MITで博士号をとったという。田中氏の研究では、「新しい中世」論が面白そうだ。

「新しい中世」という考え方は、田中氏独自のものではないらしい。グローバル化の進展によって、国家主権の相対化が進む現代社会を、主権国家体制が成立する以前の、複数の権威が領域横断的に並立するヨーロッパ中世とのアナロジーで把握する国際政治の見方である。で、田中氏の「新しい中世論」は、2つの仮説からなる。
1.グローバリゼーションの進展によって、世界のシステムが、近代的なものから中世的なものに変質する。
2.新しい中世に向かう傾向には差異が存在し、その基準で考えると、現在の世界はおおむね3つの圏域にわけることができる。

中世的なるものとは、主体の多様性とイデオロギーの普遍性だそうだ。現代社会では、主権国家以外に、多国籍企業、国際組織、NGOなどの非国家的主体が登場している。ヨーロッパ中世の普遍的なイデオロギーは、キリスト教だが、冷戦終焉後の現代社会では、民主主義(自由・人権の普遍性)と資本主義(市場経済)だというのだ。これが、ヨーロッパ中世と現代社会の「中世」的共通性。一方、技術水準や経済度システムなど経済的な結びつきで異なる。これが、「新しい」の意味らしい。なるほど。面白い見方だ。

現代社会における差異で、分けられる3つの圏域とは次のようなものらしい。
新中世圏:多様な主体をもち、経済や象徴を争点とし、「調整」が特徴で、経済や説得という手段をとり、戦争は皆無。脅威となるのは、心理や社会、近代化はすでに終了している。
近代圏:主権国家であり、争点は軍事ならびに経済、「対立」が特徴で、軍事・経済という手段をとり、戦争は政策手段となる。脅威となるのは経済・外敵で、近代化の途上にある。
混乱圏:域内集団を主体とし、軍事を争点とし、「生存」が特徴で、軍事を手段をとる。戦争状態であり、無数の脅威をもつ。近代化に失敗した地域である。

なかなか面白い論だ。さっそく、中古の文庫本をアマゾンで注文した。WEBの資料での要約だけでは掴みきれない。私も若干の関わりがある、JICAの新理事長である。アフリカをはじめとした途上国に対してどのような見方をしているか、著書の行間から是非とも知りたいところである。

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