2012年1月13日金曜日

沢木耕太郎「貧乏だけど贅沢」

沢木耕太郎の新刊文庫「貧乏だけど贅沢」を読んだ。この本は、沢木耕太郎と様々な人々との長年の対談を集めたものである。井上陽水、阿川弘之、此経啓助(日大芸術学部教授・深夜特急の旅のブッダガヤで登場した人物)、高倉健、高田宏(作家)、山口文憲(香港旅の雑学ノートの著者)、今福龍太(東京外大大学院教授・文化人類学者)、群ようこ(作家)、八木啓代(シンガー)、田村光昭(プロ雀士)。

『旅における贅沢な時間』をテーマに、自由に沢木耕太郎と語り合う構成になっている。ブログで何度か書いているが、沢木耕太郎は私の最も好きな作家だ。今回の対談は、ノンフィクションライター・インダヴューアーとしての本領発揮といったところ。坂本龍馬は、西郷のことを、「小さく打てば小さく響き、大きく打てば大きく響く」と形容したというが、この本を読んで、沢木耕太郎の形容としてもふさわしいような気もした。対談する相手によって、全くスタイルが異なるのである。そこが、この本の妙であろうと思う。

最も気楽に読めるのが、群ようこだろうか。軽妙なインタヴューとなっている。話もおもしろい。井上陽水も、長年の友人関係故の気楽さがある。意外なのが、沢木耕太郎の最も贅沢な旅先は、ハワイだということである。対談者の何人かが同意を示しているのも面白い。ちなみに、私はハワイに行った事がない。行った人々はほとんど例外なく最高だという。ふーん。喫煙者の私には、地獄の地である。

それに対して、今福龍太との対談は、かなり哲学的である。文化人類学のアプローチ(異文化の中で自分が無色透明な存在になってその世界を観察し、客観的にテクスト化していく)の破綻と、ノンフィクションでの取材の信用性から対談は始まる。語られる言葉の意味と、叙述される言葉の乖離について語り合っている。まるでデリダの形而上学批判を論評しているような感じだった。とはいえ、私は一番印象に残った。(その後の対談が群ようこだったので、余計印象が強かったのかもしれない。)

今月の新刊文庫本である。あんまり詳しく書くと、沢木ファンに怒られるので、今日はこれくらいにしておきたい。それぞれの対談に味がある一冊。おすすめである。

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