2010年9月27日月曜日

地球市民的発想で中国を語る

 3年生の現代社会の授業で、尖閣諸島の問題があまりにタイムリーなので、2時間にわたって、現代中国史の講義をした。先週は、先日のブログでちょっと書いたように、「紅」と「専」のゆれを追いながら、概観した。
 中国の13億の人民を治めると言う事は、並大抵の人間には出来ないことであるということに、生徒は十分納得してくれた。
 ところで、生徒は、この問題をどう考えているのか聞いてみた。父親や祖父がエキサイトしている家庭もあるらしい。(だろうなあと思う。)日本の不甲斐なさみたいなものは感じているが、正義は日本にあるのではないか、というのが多数派のようだった。
 私は、生徒に「地球市民」であってもらいたい、と常々考えている。今回の特別講義も、そのスタンスに立っている。中国には中国の歴史と文化とアイデンティティがある。その理解の上に立って、自分の意見を持って欲しいのである。その上で、どういう答えを出すかは、1人ひとりの自由である。

 さて、授業の後半部、話題を変えた。「中国は、途上国であるか否か?」これは難しい。手を上げさせたが、40人クラスで、是が7~8人。否が5人ほど。理由をきちっと立論できる者はいなかった。今も日本は、中国にODAを行っているというと、生徒はかなりびっくりしたようであった。「その上に今回、賠償を迫っているのですか?」という声も出た。(まあ、そう思うよな。)

 で、私は周総理の話をした。私は、周総理を凄い政治家だと思い敬愛している。我が家のトイレには、周総理の肖像画が飾ってある。(何でトイレなんですかとの質問あり。無視した。笑。)周総理は、建国以来、自分の権力への意思を捨て、国家の為毛沢東に忠誠を誓い、実際内心とは異なる政治的行為も行ってきた。大躍進や文革では、非常に苦しい立場にいながら、総理という政治的立場を守り、まさに「矢襖(やぶすま)」のように実務面を守ってきた。彼がいなかったら、今頃中国は分裂、春秋戦国時代になっていたかもしれない。批判もあるが、私はその”器の大きさ”や”大局観”を支持したい。
 大躍進の頃、周総理は農民と共に開墾に汗を流す。石を運んだりもした。これは儒教の国では考えられないことである。政治的パフォーマンスであったとしても破格である。死の直前まで病室で仕事をしていたし、もう死期を悟った時、中国最高の主治医たちを、人民の利益を優先させるため、地方に派遣した。これももし政治的パフォーマンスだったとしても、そう簡単に出来ることではない。

 その周総理が、日中国交回復時、田中角栄と戦争賠償について議論した時、こう言った。「おそらく中国への賠償金は膨大なものになるでしょう。それは、日本の人民が税金として払うことになります。恨みが残ります。そのことで、中日人民の友好が崩れることはよくない。中国は賠償を求めません。」と。生徒たちは、当然こんな事は知らない。「周さん、恰好いい!」とう声が上がった。そう、凄いコトバだったわけだ。しかし、それだけではない。この時の負い目が、以来日本にはある。ODAという形で、今も経済格差に悩む中国の遅れた地方で国際協力が行われているのはその為なのである。「したたかやな。」今度はこういう声があがる。そうなのである。だからこそ、周総理は凄いのである。単にお人好しの「君子」ではない。

 「ここまで学んだ上で、自分の結論を導いてほしい。まあ、客観的に見て、中国を引っ張る政治家というのは、はるかにスケールが違うということだけは確かなようだ。」と言ったら、チャイムが鳴ったのである。

3 件のコメント:

  1. ご無沙汰しております。
    なかなか忙しくて、先生のブログを拝見できませんでした。
    中国の話題がホットな今、さすが先生。
    中国の話題がてんこ盛りですね。
    あとで、昨日以降の記事も、ゆっくり拝見させていただきたいです。


    中国は途上国であるか?という問。
    大変難しいですが、それだけで論文が書けそうなほど、
    意見が飛びかいそうですね。
    私が見た中国は、もちろん都心部が大半ですから、
    これを途上国であるかと言えば答はもちろんNOです。
    しかし、チベットやウイグル、少数民族居住地域からすると、
    どうなんだろう。。。という感じですよね。
    もちろん、政府によって義務教育はなされていますが、
    未だに牛や馬を使って農耕をしている民族や地域も存在しているわけですから、
    中国13億人いれば13億人13億色といった所でしょうか?

    現在の中国人船長への日本政府の対応や、賠償金問題等など、
    問題は山積みですが、何よりも願うのは、日中の友好と経済交流の活性化です。
    世界の工場から世界の市場へと発展した中国は、やはり日本の経済をも担っていると思います。
    低賃金労働者が減ってきて、アパレル業界等は中国では採算が合わなくなってきているため、チャイナ+1への移行が激化していると聞きますが、やはり市場の購買力は人口の数だけ13億のの可能性を秘めていると思うのです。
    そういう点では、中国は途上国ではないのでは。。。なんて思いますが。

    なによりも、修学旅行が無事に決行され、無事安全に過ごせますことをお祈り申し上げます。

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  2. 中国は先進国か否か。これは僕も彼女も意見が一致して、中国はまだまだ途上国だと思います。先進国と途上国の差は社会システムとインフラが整っているか否かによるのではないでしょうか。例えば、教育、医療、社会保障などは中国では自助努力や共助に頼っている部分が大きいです。

    日本みたいに総理をコロコロ変えてみるような冒険してたら、中国の場合、国家の存続が危うくなる可能性は十分にあります。そう考えると中国は巨大なベンチャー企業みたいなもんですね。

    ちなみに増金は彼女の名前なのです。。ピンインではzengjinです。グーグルアカウントを間違って使ってしまいました。。ごめんなさい。。

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  3. yukimi君へ。久しぶり。さすが中国問題は詳しいなあ。嬉しく思います。中間終ったら、国語科で、いっぺん本気でディベート(ディベート甲子園様式で)しようかな、なんてちょっとだけ思っています。
    哲平さんへ。「中国は巨大なベンチャー企業みたいなもんですね。」名言やと思います。授業で来年使わして下さい。「教育、医療、社会保障などは中国では自助努力や共助に頼っている部分が大きいです。」これも重要な情報ですね。私も中国の村落は実際に経験していませんので、勉強になりました。増金さんによろしくです。それと、東大での講義については見ていないので、わかりません。すみません。

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