2020年10月18日日曜日

政治家・中曽根康弘 私論

http://tisen.jp/dia/2003/20030503.html
先日、中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬が行われた。本来は3月に予定されていたらしいがコロナ禍で、新嘗祭の日に行われた。これは菅政権下での解散総選挙を阻止するための日程だという論評もある。極めて政治的な話で、中曽根元首相の合同葬には実にふさわしいと私などは思う。好悪を抜きにして中曽根とい政治家について私論をエントリーしておきたい。

中曽根康弘という人物は、実に毀誉褒貶の多い人物である。内務省から海軍の主計少佐、政治家に転身してからは、青年将校とか緋縅(ひおどし)の鎧を着けた若武者などと呼ばれた。保守合同までは、反吉田(茂の自由党)で野党であった。そういう過去から長く保守傍流と見られていた。当初から改憲派でありタカ派である。派手なパフォーマンスや発言で存在感を示してきた。早くから原発新進派でもある。よって科学技術庁長官で初入閣している。

佐藤長期政権後、「三角大福中」の一員として、総理総裁を狙うが、結局最終ランナーとなる。田中政権を誕生させた原因の1つは中曽根が総裁選出馬を見送り支援に回った故であるが、次の三木政権では、最後まで主流派となり田中派とも福田派とも敵対する。福田政権下では、福田に近寄り党総務会長で、福田のライバル・大平幹事長とは違う方向の発言を繰り返す。大平政権では、四十日抗争で反大平ながら、ガチガチの福田・三木派とは距離を置く。ハプニング解散中大平が死去。本命でありながら、田中派の支持が得られず、大平派の番頭・鈴木善幸政権が誕生。中曽根は行政改革長官として、ひたすら行革三昧。やっと田中派の支持を受け総理総裁の座を勝ち取る。まさに「風見鶏」と呼ばれるにふさわしい。

田中派でも特に中曽根嫌いだったのが金丸信で、「なぜオヤジ(田中角栄)はあんなオンボロ神輿を担ぐのか」と聞いたら、田中は「オンボロだから担ぐんだ」と言った。大の中曽根嫌いの金丸が「オヤジの言うことを聞けない奴は派閥を出ろ」といい、派内は収まったという。中曽根内閣は、この田中派の影響力が大きく、「田中曽根内閣」とか「直角内閣」とマスコミに揶揄された。幹事長は二階堂進、閣内に7人の田中派が入った。ただし、後藤田官房長官は中曽根本人が切望した人事らしい。後藤田正晴は内務省の先輩にあたる。警察庁長官を退任後、田中政権で官房副長官(事務)となる。これは事実上官僚のトップ、事務次官等会議を主催し調整する役割である。中曽根政権の様々な危機管理(函館空港にミグ戦闘機が亡命のため着陸した事件・三原山噴火など)を行った。同時に後藤田はハト派で、危なっかしいタカ派の中曽根をうまく操縦していたように思える。

残念なのは、1985年8月の日本航空123便墜落事故の際は、後藤田が官房長官ではなく、自派の藤波孝生であった。その後もう一度後藤田は果房長官に復帰している。(1985年12月)この事件の真相は闇の中だが、様々な情報があって、中曽根が墓の中まで持っていくと言っている。米軍が真っ先に事故現場に行ったことや、自衛隊のF4がこの機の後方にいたことなど、表には出せは、政権転覆だったに違いない。

中曽根内閣の功罪は、いろいろあるのだが、戦後政治の総決算として、まだまだ左翼勢力やリベラル勢力が強い日本にあって、それなりの志をもって日米外交を行い、大統領型の政策遂行を行い、また国鉄などの三公社を民営化させた。最も、バブル景気を演出し、後の日本経済に大きな損害を与えたともいえる。

政治家には運不運というのもある。池田勇人は高度経済成長時代を演出した。所得倍増を実現したが、これも運が強いからである。田中角栄は三角大福中でトップランナーになったが、日中国交回復を成し遂げた後、ちょうど経済が下り坂になった。中曽根の場合、バブルやプラザ合意で内需拡大など、首相の間はうまく乗り切れた。しかもロッキード・グラマン事件で塀の中に田中は落ちたが、中曽根は外に落ちて助かったわけで、これも運である。

最後は、ニューリーダーの竹下登・安倍晋三・宮澤喜一の3人のうち誰を後継指名にするかという権利を勝ち取った。このころ私は工業高校で教えていたが、生徒にその予想をさせ、レポートとして提出させたことがある。結局、竹下登になったのだが…。もうすでに田中角栄の政治力はなく、派内でも対立が起こり竹下派が分離していた。決して、田中への忖度ではなかったはずだ。その後も党内に力を温存する。これも運である。

私なりの結論。中曽根康弘と言う政治家は、実に運がいい政治家である。風見鶏と言われ毀誉褒貶があるけれど、自らの志を一応貫けたと思う。首相時代の最大の功労者は、後藤田正治と言う内務省先輩の、そして田中派の官房長官である。

…PBTの教え子・R大のJ君から、大阪都構想についてエントリーしてほしいという依頼が先日あった。私は大反対である。大阪の教育関係者ならそう答えるはずだ。だが、詳細はブログでは書きたくないと返事した。今日のエントリーはその代わりといってはなんだが、そういう背景のもと、政治家志望の彼に贈りたいと思う。

追伸:J君へ。戸川猪佐武の小説吉田学校(全8巻)ならびに続編・永田町の争闘などや大下英治の自民党関係の本を読むといい。戦後の日本政治史がよくわかるはずだ。

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