2020年10月3日土曜日

中国の不安全感と構造的暴力

https://apjjf.org/-Barry-Sautman/3278/article.html
「中国が強硬な大国外交をする理由」という加茂具樹慶応大総合政策学部教授の小論が、実に興味深い。その骨子を要約してエントリーしておく。

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/20923

1990年代初頭から、中国共産党は社会主義と市場経済は矛盾しないと公式に定義した。以後の中国外交の目的は、改革開放(市場経済化)に貢献する、中国に有利な国際秩序を構築することであった。歴代指導部は、中国は国際秩序に遅れて参入したアクターと認識してきたため、既存の国際秩序にどのように適応するかを、注意深く、警戒心を持ち、中国語で言う「不安全感」を抱きながら観察した。この不安全感を某元外交部副部長は寄稿記事の中で、「パクスアメリカーナといわれる既存の国際秩序は、欧米の価値観、米国を中心とした軍事同盟、国連とその国際組織の3つ要素で形成されている。前の二つは中国とは相いれない。最後の要素のみ中国は受け入れることができる。」と論じている。

現指導部が外交路線で最も重視してきたのは、「制度に埋め込まれたディスコース・パワー」(中国語では、制度性話語権)である。ディスコース・パワーとは、話し手の言説に含まれる論理、価値観が生み出す影響力であり、発言の内容を相手に受け入れさせるパワーである。そして制度に埋め込まれたディスコース・パワーとは、国際秩序を形成する国際制度での議題設定や議決に中国の要求を受け入れさせるパワーである。どうやら、アメリカの覇権を研究する中で生まれたようだが、2016年の全人代でこの方針を採択している。

この結果、世界銀行やIMFといった既存の国際制度下で議題設定権や議決権の拡大、一帯一路、アジア投資銀行(AIIB)など中国主導の国際制度でその影響力を強化してきた。

…要するに、遅れて国際社会に参加した中国にとって、欧米によって築かれた既存の国際制度(開発経済学では、途上国側から見て「構造的暴力」と呼ぶことがある。)を打破するための策が、アフリカ等に支援をばらまき、国際機関で中国の意志を応援させるとともに、一帯一路やAIIBでアジア・アフリカ諸国を借金漬けにすることでさらに強力に支持させるというカタチになっているわけだ。

…コロナ禍で、WHOを味方につけたのもこの延長線上にある。議長の出身国エチオピアの通信は中国が握っている。高原の国エチオピアで携帯電話の基地局を中国が全土に立てた。凄い人海戦術だが、もちろん携帯電話は中国製で、完全に情報を支配したのである。エチオピアは、中国の意に逆らえない国だ。今日、コロナ陽性と診断された米国大統領閣下がWHOを声高に非難した理由は、これがパクスアメリカーナの秩序(構造的暴力)への挑戦だからである。

…開発経済学的に見た場合、中国の外交政策は、一面では正義である。欧米の価値観や軍事同盟を破壊するのは至難の業だが、国際機関にシンパを増大することは悪い事ではない。ただ、中国共産党には正義がないと断じれるのは、欧米の構造的暴力に挑戦しながら、自らアジア・アフリカの途上国に対し新たな構造的暴力となりさがったことである。借金漬けだけではなく、チベットを支配したうえで、ダムを数多く建設し、インダスやメコン、チャオプラヤなどのアジア諸国の大河の源流を抑え水資源で押さえつけ、中国を支持せざるを得ないようにしているという事までやっている。

…日本が第二次世界大戦に参戦し、敗北したのは、世界秩序への挑戦だと欧米に思われたからだ。たしかに大東亜共栄圏構想は、欧米にとっては危険極まりない挑戦であったと思う。ある意味で、中国は日本の果たせなかったアジアの夢を追いかけているといえなくもない。だが、実際のところ中国共産党幹部の腐敗蓄財や、ディスコース・パワーが、情報・技術の盗難、プロパガンダ、情報統制、はたまた買い占め、人権弾圧にエスカレートしてしまっている現在、各国は、中国のディスコース・パワーに警戒感を強めている。これはほとんどが犯罪行為であるからだ。

…ちなみに、戦後にアメリカが日本を民主化し、一億総懺悔させ、パン食を普及し米国産小麦の需要と飼料作物の需要を増大させたことも、ディズニーやポパイ、トムとジェリーなどのアニメをTVで流し、奥様は魔女的なアメリカの消費文化を日本に根付かせたのも、アメリカの見事なディスコース・パワーである。韓国への無秩序な優遇などもこの成果の延長線上にあるといえる。そんなことまで考えさせられる、いい小論だった。社会科学を学ぶPBTの教え子諸君にも是非読んでもらいたい。

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