2011年2月16日水曜日

「インパラの朝」を斜め読み

 先日本校の図書館に行く用事があって、「インパラの朝」を見つけた。かなり前に発行され、読書感想文の高校生向けの課題図書であることは知っていた。パラパラとめくっていて、結局借りることにした。学校の図書館司書のY先生とこの本について少し語りあった。「私も読みました。生徒にも勧めたこともあります。でも…。なんか…。」私も少し読んで、彼女の言いたいことがすぐ分かった。「そうだよね。鋭角だね。」「そう、鋭角ですね。」

 この本、本当に高校生向けの課題図書でいいのだろうか、と私は思った。文体といい、流れといい、「鋭角」なのだ。批判するまえに、とにかく他の書評を見ようとしたら、旅行人の編集長・蔵前仁一氏のブログにすばらしい書評があった。(以下引用)
 『不思議な旅行記だ。少なくとも、ユーラシア・アフリカ大陸を2年もの長きにわたって旅したという感覚を味わうことはできなかった。それは、この旅行記が、各地で会った人々、起こった出来事を断片的につなげた構成になっているからだ。』
 『この人は、旅行中にずっとブログで旅の報告を書いていて、それをざっと見る限り、実はチケットをどう買ったかとか、トイレが臭かったとか、旅に付き物の話も山ほど書いている。しかも、文体がかなり異なっている。本書の文体は、選考委員が「クール」と評するような冷静な文体なのだが、ブログは「ですます調」で丁寧である。ということは、やはり本書を書くにあたっては、かなり練り直して書きあげたものなのだ。』
 なるほど…。で、実際に著者のブログを除いて見た。http://asiapacific.blog79.fc2.com/
 私が、あまりの「鋭角さ」が気になったタンザニアの宝石鉱山で、彼女が激怒するシーンなどもブログを読む限り、「鋭角」な違和感はない。確かに極めて「肉食性女子」的に、書き直している。

 蔵前氏は、さらに『私は、彼女がアフリカで語っていることはまっとうなことだと思うし、共感もする。私自身がアフリカで感じたことでもあるからだ。世間が言っているアフリカなんてみんな嘘だ、なにが「アフリカ・エイド」だ! と思ったのは当時の私だが、彼女もそういうことを叫びたかったのだ。実は、もっともっと書きたいことがあったのではないかと思うが、たぶんそれを書いたら一冊の旅行におさまらないから、こういうスタイルにおさめ、最後の方で爆発させたのだろうと思う。』この蔵前氏の言う最後の爆発とは、上記のタンザニアの宝石鉱山の話に始まり、ニジェールの「善意とプライド」の章を意味すると思われる。彼女は、P246にこう書いている。

 貧困?それはまさに私自身が一番言おうとしていたことだ。私はアフリカへ行くにあたって、一つの構想をたてていた。アフリカへ行って貧困と向き合い、現地の惨状を確認し、世界に現状を知らしめて共感を得ようと計画していた。(中略)けれど、あてがはずれてしまった。なぜなら、予想していた貧困が思うように見つからなかったからだ。想像していたほど人々は不幸な顔をしていなかった。(中略)アフリカは教える場所ではなくて、教えてくれる場所だった。助けてあげる対象ではなく、助けてくれる人々だった。アフリカは貧しい大陸ではなく、圧倒的な豊かさを秘めた、愛されるべき大陸だった。

 うむ。ここが「インパラの朝」の核心部分であろう。ならば、課題図書として十分許される本だが、それにしても、彼女の無謀な冒険主義的移動(イエメンからジブチ行や、午前3時着のザンビア行など)は、男女を問わず高校生に読ませるべきだとは私は思わない。この本が、ゆくゆく「深夜特急」化して、バイブルになった時、私は大いに批判したいところだ。これは、初老の男性である私が持つ、肉食系女子に対する生理的な忌避の感情かもしれないのだが…。

3 件のコメント:

  1. 昨日のブログで登場したIです。
    昨日はお世話になりました。
    参考にして計画を立てたいと思います。
    どうせ行くなら一番行きたいところへ行きたいですね。
    少し無理をしてでも行きたいと思います。
    今日カードを作りに行っていましたが,かなり時間がかかりそうなので,心配です。
    質問がたくさんあるので,指導のほうよろしくお願いします。

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  2. Tsujiさま
    「鋭角」ですか。いいですね。
    引用されていた部分、すごく共感します。以前お話ししたでしょうか。僕が参加していた勉強会で、「「貧困」という言葉を使わずにアフリカを語れないか」と提起したところ、アホな自称ジャーナリストに「人でなし」のように扱われたこと、当時、うまく言語化できませんでしたが、この著者と似たような感覚にありました。
    僕も当時、合計5,6ヶ月のアフリカ経験がありました。この「経験」が非常に重要で、著者の長い経験の中から出てきたように思いました。そのうえで、日常-非日常の対立の中から旅を描き出す沢木耕太郎とは一線を画すのではないか、と思いました。そういう意味では、なかなか共感を得るのは難しいかな…と思うのですが。

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  3.  こーちゃんへ。アメリカはクレジットカード”命”。ところで、プラトンのエロースを語った時に、「理想に向かっていくところに幸福がある」と言ったと思う。(もう3年も前だが…)準備もまた楽しい。十分楽しんで欲しい。私はもうそういうの、やめて”行きあたりばっ旅”になってしまったが…。

     荒熊さん、コメントありがとうございます。「正直、アフリカ人のことはよくわからないですね。」と、あの早川千晶さんは、ケニアでお会いした時、言いました。荒熊さんもブルキナべの良さも悪さも全部飲みこんではると思います。著者の言いたかった核心は、そういう謙虚な魂から出てくるものだと思うのです。だからこそ、解ってないのに解ったような「貧困」という語に、反応するような気がします。私も本当のところ、わからない。わからないから学びたいわけで…。
     このコメントを共感できる人々が、私のブログを見ていただいている方には多く居られると思うのですが…。
     

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