2011年1月13日木曜日

「風をつかまえた少年」前編

風をつかまえた少年(日本語版)
 「風をつかまえた少年」をじっくりと読むつもりだったが、あれよあれよといううちに6割方読んでしまった。いよいよ本題の風車づくりに結び付く図書館に彼が足を運んできたところである。内容の細かなところにふれると、これから読もうとしている方に迷惑なので、今、どうしても主張しておきたいことだけ書き留めたい。
 この本は、ウィリアム・カムクワンバ君の体験をブライアン・ミーラーというジャーナリストが口述筆記したものらしいが、目次を見て、私はえらく前置きが長いなと感じた。そう、子供のころからの体験談が続くのである。マラウイの田舎の農村。そこで体験した些細な日常。
 だが私は、この前編部における前置きこそが、極めて重要だと思う。その理由は2点ある。ひとつは、後半に出てくる2000年から2001年にかけてのマラウイを襲った飢餓の話である。この飢餓、日本にいると全く想像できない。それが、ミラー氏の聞き取りのうまさと構成力で、まるでそこにいるような感覚を呼び起こす。訳者の田口氏の力量もあるだろう。私は、アマルティア=センの「飢餓」の考察などを読んでいるし、全く飢餓について無知であるとは思っていない。しかし、圧倒的な迫力で「飢餓」が迫ってくる。地球市民として、是非読んでおきたい記述だと思うのだ。
 もうひとつは、飢餓の描写も含めて、マラウイの日常が生き生きと描写されていることだ。子供がどんな遊びをしているか、小学校でどんなことを習っているか、魔術がどういうふうに浸透しているかなど、私には、一つひとつが貴重な情報である。面白くて読み進み、飢餓の場面ではらはらしながら読み進み、気がつくと図書館の場面にたどり着いたわけだ。だからこそ、彼の風車づくりが、理解できるのではないか。もちろん、アフリカの文化人類学的な部分が面白くない人もいるかもしれない。しかし、最初から積み上げるように読んで欲しいと思った。彼らアフリカ人の「たくましさ」「あたりまえに生きる強さ」を知って欲しい。また様々な人びと(ウィリアムの父や母、親戚や友人)が吐く至言とも思える箇所もいくつも出てくる。そういう意味で私には、極めてありがたい本である。

 さて、スーダン南部の国民投票の中、風土病が猛威をふるっているとのWEBニュースが飛び込んできた。
【ジュバ(スーダン南部)時事】スーダンからの独立の是非を問う住民投票が15日まで実施されている南部で、治療しなければ致死率がほぼ100%の風土病、内臓リーシュマニア症(カラアザール)が8年ぶりに大流行している。医療関係者は「住民投票の歓喜の陰で内戦に伴う人道危機は続いている」と警告している。カラアザールは、寄生虫を媒介するサシチョウバエを介して感染する熱帯病で、スーダンでは南部ナイル川沿いの州など一部地域で発症。マラリアなどとは異なり、地域的に限定された病気のため研究が不十分で、「顧みられない病気」とも呼ばれる。8年前の流行後、免疫のない世代が増えたほか、天候の影響もあって昨年末から大流行。南北内戦で発症地域に十分な医療施設や医師が存在せず、死者数など実態は不明だが、国際緊急医療援助団体「国境なき医師団」が昨年治療した患者数は、前年比8倍超の約2050人に上っている。 
 リサーチしたら、国境なき医師団のHPにも、このスーダンでの活動の様子がさらに詳しく出ていた。 http://www.msf.or.jp/news/2010/08/4925.php

 前述の「風をつかまえた少年」の飢餓の話にはコレラの蔓延の話も出てくる。切ないほど、痛々しい。私は、これまで以上に、このスーダンの状況を具体的にイメージできるようになった。是非とも本校生にも読ませたい。来年度になるかもしれないが、図書館で買っていただく手配をしておいた。

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