2011年1月12日水曜日

狂気の偽装と「アルファー波」

  実は年末に、妻の用事のアッシーとして働きながら、こそっと古本屋で何冊か文庫本を手に入れていた。読み切った本は2冊だけだが、今日は、その1冊『狂気の偽装-精神科医の臨床報告-』(岩波 明/新潮文庫)について書きたい。このタイトル、なんか刑事裁判での話のようだが、内容は様々な「心の病」が、実は心理学者によってつくられた虚偽の「心の病」だったり、安易な捉え方から違う方向へ「心の病」が理解されていたり、はたまた「心の病」になりたいという願望の所産であったり、マスコミの報道によって「心の病」が様々に曲解されていることを、精神科医として危惧し、本当の「心の病」の実情を証言した本といってよいだろうか。
 PTSD、ADHD、アダルト・チルドレン、ゲーム脳といったよく耳にする心理学用語について詳しく解説されている。全うな精神科医から見ると、そう簡単には「心の病」にはならないということらしい。
 ともあれ、精神医学は自然科学なのだと思うが、心理学はその自然科学的基盤が危ういのかもしれない。本校生は、案外この心理学を大学でやりたいという生徒が多い。私が倫理の教師故に相談に来る生徒も多い。入るに難しく出ても就職が厳しいという現実もあって、いつも断固として勧めない。それでもなお思春期にある彼らには、大いに興味があるらしい。まあ、自分の高校時代を振り返ると解らないでもないが…。

 さて、心理学の話が出たので、アルファー波の話を書きたい。実は校長が始業式で、特に3年生に向けて、自信を持ち、自分は出来ると言い聞かせて受験に臨むよう檄を飛ばされていたのであるが、これは私がよく生徒に言う『アルファー波で行け!』ということである。本校に赴任した年、なぜか私はPTA係にされた。それでPTA総会や研修に度々参加することになったのであるが、その研修会でのことである。講師の先生は、自己能力開発コンサルタントという人物だった。彼は、しきりに「脳波には、アルファー波とベーター波があります。子供さんにはアルファー波を出させましょう。」と言っていた。話だけだと、「ふーん」という感じだったが、実験をすると言いだしたのである。

 前の方でメモを取っていた私に「先生、体重は何キロですか。」とまさにタブーといっていい質問をしてきた。私は思わずサバを読んで「80kgくらいですかねえ。」と答えた。当時のPTAの役員のお母さん方を5人アトランダムに指名して、会議室に集まった聴衆にこう言った。「今から、80kgのこの先生を、座っておられる椅子ごと、この5人のお母さん方が、右手の人差指1本ずつを使って持ち上げてみせます。」「えぇ~」という、おそらく半分は私の体重が重い事へのブーイングのようなざわめきが起った。実際、指名されたお母さん方も、人差し指5本では不可能だと思われたのだろう。「げえぇ~」これはおそらく、完全に私の体重へのブーイングだった。(笑)で、その5人のお母さんを隅に読んだ講師は、「軽い!」とか「出来る!」とか言って暗示をかけていた。ちょっと不機嫌になった私は、意地でも持ち上げられるまいと決意した。何より数kgはサバを読んでいるのである。(笑)

 ところが、実際には易々と持ち上げられてしまったのである。自己に自信を無理やり持たせる「アルファー波」とは、いかに凄いか私は認識させられた。センター試験まであと3日。何が何でもアルファー波で行けっ!

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