2010年3月11日木曜日

異文化理解としての宗教学


 4月から現代社会という3単位の公民分野の教科をU先生と、ESDを基本にして行うことになった。1年近く、学校で、また京橋の喫茶店で打ち合わせを続けてきた。その結論は、まず資本主義を教えるのも、民主主義を教えるのも、「個人」として立脚できる精神的基盤がなければ成立しえないという結論だった。となれば、プロテスタンティズムを語らねばならない。ならば…と思索を重ねると、結局、ユダヤ教-キリスト教-イスラム教の「一神教」をきっちりと説くべきである、という結論になった。

 先日見たNHKの世界遺産の番組で、奴隷として新大陸に渡った黒人の話が出てきた。アフリカに戻ってきた人々もいる。奴隷だった彼らの名前について、「人名の世界地図」(21世紀研究会編)に興味深い章がある。『黒人奴隷に押しつけられた名前』である。ルーツの主人公クンタ・キンテも本名を名乗る権利は無く好き勝手に名前をつけられたはずだ。、最初に乗船させられた男と女は、アダムとイヴとつけられることが多かったらしい。船員につけられた場合はイギリスの地名が多かったという。さらに所有者によって、シーザー、ジュピター、ユリシーズ、ダイアナ、ヴィーナスなど古代ローマ的な名前や、皮肉に満ちた名前、たとえばプリンス、ジェネラル(将軍)、キング、デューク(公爵)などがつけられたという。

 ところで、欧米人の名前にはキリスト教やユダヤ教の伝統に結びつく名前が多い。異文化理解にはかなり有効である。先ほどのアダムとイヴだけでなく、たとえば、アブラハム。英語ではエイブラハム(リンカーンが有名)となる。白鯨のエイハブ船長も同義である。イエスに洗礼を与えたヨハネは、英語ではジョン。ロシアではイワンとなる。イエスの一番弟子ペテロは、英語ではピーター。ロシアではピョートル、イタリアではピエトロ、フランスではピエール。ドイツではペーターとなる。異邦人への布教に多大な活躍をしたパウロは、英語ではポール。スペインではパブロ。などなど、言い出したらきりがない。
 倫理では、ユダヤ教、キリスト教の基礎概念をやった時点で、この名前の話を入れる。「属性」があれば、学習は楽しい。イサクは英語ではアイザック。ニュートンとくるかと思ったら、アシモフの名が返ってきたりする。まあ、枝葉なのだが、私は興味付けと具体的な異文化理解にとって重要な学習だと思っている。
 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が同じ神を信じていることを、私は30年間教えてきた。最近やっと文科省もイスラムを教えるよう指示しだした。今の国際社会を理解するキーは、まず一神教なのである。

 「個人」に立脚する思想は、カトリックの集団主義的な教会至上主義からの反革命思想として生まれた。日本人の多くは、プロテスタントという宗派があると思っている。私は、ルター派、カルバン派、英国教会と分類したうえで、さらにバブティストやメソジスト、クウェーカーなど様々な宗派についても教える。もちろん正教の方も教える。相手を理解しなければ異文化理解も地球市民もありえないのである。とはいえ、一神教はやっかいである。善悪二元論的に物事を理解する傾向がある。南アのアパルトヘイトもオランダ系ボーア人が、カルバン派故の予定調和説をとって、神に祝福されるかいなかは予め決まっていると考えるからこその黒人隔離政策だったのである。…奴隷の名前にしたって、非キリスト教徒への、えげなつない仕打ちという側面があることは否定できない。
 

4 件のコメント:

  1. ニューヨークに行った時に黒人差別というものがここまで根強いものかと感じました。平日の昼間から地下鉄で歌っている大家族、白人だけ、黒人だけの学生グループを見たときはなんとも言えない感情が生まれました。
    そんなこんなで私のアメリカのイメージは貧しい国なのです。ニューヨークの後に古き良きアメリカが残るヴァーモントでの生活を差し置いたとしても。
    特に一泊1800円で泊まれるホステルを探して真夜中のブルックリンは歩いた時は本当に殺されると思い、二十歳にして少し涙を流しました。

    話は変わりますが、今年も「なりたい職業ランキング」なるものが発表されてました。成功したいという考えが減って周りを幸せにしたいという考えが増えたそうですが、教師としてはどのように考えられますか?

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  2. 私のニューヨークの黒人差別の話また書きますね。人生は、結局のところ自己実現だと思います。人文学的に言えば、成功という公式が、様々な犠牲の上に成り立つことが、情報化社会の中で丸裸にされているのかなあと思います。それよりも犠牲の少ない周りの幸せに向かっているような気がします。授業で聞いても、セレブになりたいという意見は少数です。もっと社会学的に考察すべきなのでしょうが…。

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  3. いえ今回は一般論ではなく、個人的な意見を聞いてみたかったので!
    今回のアンケートではニュースの報道の仕方が面白くて、わりと教養ありそうな番組ではマイナスに捉えていて、大衆向けの番組では肯定的に捉えているような気がします。
    私が小学生の時からずっと、「お金よりも幸せ」という教育、あるいは報道があったのでやっと効果が出てきたのではないかと思います。教養ありそうな番組はいつものように国際競争力を持ち出して批判するのですが。
    私個人的には議論を過去に戻さずもっと突き進めば新しい社会の形が見えてくると期待しています。国際競争力の話をするならば自殺を止めるべきです。南アメリカの殺人事件が一万八千人らしいので、日本は明らかに社会的殺人が多すぎます。

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  4.  個人的意見としては、地球市民を育むことが私の教育の目標ですから、他者を理解することができることは、すなわち、成功より「周りの幸せ」に価値をおくことになりますね。ただ、成功することは否定しません。成功して、困っている人や途上国の人々を助ける具体的な力をもつことで、貢献できることもあります。私は、哲平さんの言う成功より周りの幸せを推進する教育」というのは、わからないではないけど、ストレートには言った覚えがないですねえ。この両者は決して二律背反ではないような気がします。

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