2023年3月23日木曜日

タリバン復権の真実を読む。

さっそく橋爪大三郎氏が推薦していた中田考氏の「タリバン復権の真実」が届いた。重要と思われるところをさらっと読んだのだが、1996年から2001年頃の内戦期のタリバンと、今回アメリカ軍撤退前後に平和裏に復権を果たしたタリバンとの差は、世間知らずの若造の田舎傭兵・神学生(タリバンの名の由来)が、海千山千の手練の政僧・ウラマー(法学者)に成長したという時間的経過によるものだということであった。実に興味深い。

2015年頃にはすでに、二重支配が始まっていたいう報告がある。村々で、仲裁案件を政府系の役場や裁判所に持ち込んでも賄賂を要求されたり放置されたりするのが常であるのに対し、タリバンは1週間ほどで判決し、異論があっても銃の力を背景に判決を守らせてきた。それに対し政府は、完全に腐敗していた。それだけでなくアメリカなどからの支援金は、国連職員やNGO、政府軍の訓練を担当する傭兵組織などに流れ、政府におこぼれが来る程度。支援機関も政府も腐敗しており、一般の人々には全く無意味なものになっていた。タリバンは、カブールに入城すると、旧政権の人間への恩赦を発表したが、それは、地方で時間をかけて人心を掌握し、影の政府を構築した手法と同じである。給料の支払いが長年支払われていなかった政府軍兵士は、タリバンと戦闘など考えられなかったし、また公共事業を維持するために、恩赦された役人らを留任させた。数週間ぶりにカブール市民はほぼ滞りない電気供給を受けることが出来たという。一般の人々はタリバンの復権を喜んでいるわけだ。

こういうタリバンの本当の姿は、アメリカの産軍複合体、腐敗したアフガン政府、国際機関、人権団体のような利害関係者などの、党派的発言や現地語も事情も知らないジャーナリストの聞きかじりの断片的な情報の垂れ流しによって、歪曲されてきた。かの故・中村哲氏も『タリバンの恐怖政治は嘘、真の支援を』(日経ビジネス/2001年10月22日号)で、その旨を述べている。

この本には、成長しウラマーとなったタリバンが作成した「イスラム首長国(タリバンによるアフガニスタン新政府)とその成功をおさめた行政」「タリバンの思想の基礎」=(タリバン指導部のイスラム理解・西欧文明の生んだ退廃による思想と知性汚染の不在・国際秩序、国連、その法令、決議等の裁定を認めないこと・アッラーの宗教のみに忠誠を捧げ、虚偽の徒との取引の拒絶・領主と世俗主義者の追放と学者と宗教者による代替・民主主義は現代の無明の宗教であり民主主義の拒絶・純イスラム的方法に基づく実践・政治的制度的行動の方法における西洋への門戸の閉鎖・女性問題に関する聖法に則った見解・ジハードとその装備)といった文書の翻訳が記載されている。中田氏はカリフ制を重視されており、そういった意味で、イランとタリバンの政治体制についてさらに深く論じておられる。今回は、この翻訳とその論議には触れないが、勉強し、いずれ紹介できれば、と思う。

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