2013年5月20日月曜日

「謎の独立国家ソマリランド」#4

ソマリ人はつくづく面白いと私は思う。ソマリランドは、そのソマリアにありながら、信じられないほど平和である。武器をもつ人間が見えないのはもちろん、両替屋は野放図に札束を見せていて、ここがソマリアの一部とは全く思えないほどの治安の良さである。なぜ他の地域が内戦をしているのに、ここだけ長老の話し合いで武装解除できたのか?その謎は、氏族という社会構造にある。氏族はこれまで書いたように不思議な利益集団である。ソマリランドは、特に産業も何もない遊牧民の世界で、氏族間の対立は日常茶飯事であった。故に『ヘール』という賠償の掟(成人の男子1人が殺されたら、牛何頭というふうな…)が生まれ、中立の仲介者がうまくまとめてきた。著者は、ソマリランドが平和になった理由を『ヘール』にあると信じていたのだ。

しかし、内戦を止め、武装解除を推進した長老会議に出席した人物にインタビューしたところ、この『ヘール』は適用されていなかったのだった。あまりに多くの殺し合いがあって計算不可能、しかも「前例のないもの」だったからだ。ただ、1回目の和平交渉時に「娘20人ずつを交換する」という方法をとったらしい。欧米的な人権概念では測れないすごい解決法であるが、最もいがみ合っていた氏族の戦いは止まった。「殺人の血糊は分娩の羊水で洗い流す」というソマリの格言があるそうだ。

首都がある南部は、産業もあり、しかも旧宗主国のイタリアが氏族社会を破壊してしまい、混乱に拍車がかかったが、英領で間接統治だったソマリランドは氏族社会がしっかり生きていて、奪い合う利権も少なかったし戦争も停戦も慣れていたわけだ。

本書では、ブントランド、南部ソマリア、そしてソマリランドの政治体制を比較して見せる。この話はまた次回に。

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