2024年8月28日水曜日

「聖書の同盟」書評 続編2

https://note.com/ooya113/n/n24eb28e241cb
世界価値観調査の教材で、アメリカは伝統的な価値(特に宗教)を重視する一方で、多様な価値観も持っているというゾーンに位置する。授業でも、その謎解きをしている。生徒諸君のアメリカのイメージは、ヨーロッパの先進国並みだといえるが、前述のように、聖書の内容を純粋に信じている福音派が25%もいること、この象徴的な事件が、テネシー州の進化論教育のの是非を争ったスコーブス(モンキー)裁判である。受験の世界史には登場しない話だが私はアメリカという国の理解には極めて重要な話だと思っている。本書には、詳しく書かれていて興味深い。

この進化論教育を否定する州法成立に尽力したブライアン元国務長官が検察側に立った。大統領選挙に3回も出馬した大物政治家で、裁判は検察側が勝利したものの、ラジオ中継された弁論では創世記の矛盾をつく弁護士に四苦八苦し、全米の笑いものにされ、裁判の5日後に憤死している。

「時代遅れの田舎者」という汚名を着せられたブライアンだが、社会的弱者への同情心を持ったリベラルな政治家で、巨大企業の独占禁止、労働条件の改善、婦人参政権、平和と軍縮などに取り組み、米西戦争後のフィリピン併合にも反対したウィルソン民主党政権の外交政策がWWⅠの参戦につながる、と抗議して国務長官を辞任した人物なのである。

ブライアンがキリスト教原理主義に接近したのは、世界大戦の凄まじさから楽観的な世界観が崩壊した故で、特にWWⅠでのドイツの軍国主義は社会進化論(ダーウィンの進化論を社会に応用・解釈した論)の影響だと考えたのである。その後、台頭したナチスが、この社会進化論の優生思想による安楽死名目で障害者大量殺人から、ホロコーストへ進んでいったWWⅡの歴史を見れば、ブライアンの問題意識は鋭かったといえる。適者生存の社会思想は、敵愾心や闘争心を煽り、弱者への同情心や共感を消し去ると考えたブライアンは、社会的ダーウィニズムを主敵と定め、子供たちの心に悪い影響を及ぼす進化論教育と戦う福音派の十字軍戦士となったわけである、と著者は記している。

…この裁判の深い部分を知る機会を得た。こういう知の集積は極めて重要だと思う。…つづく。

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