2024年8月11日日曜日

土地なき民に、民なき土地を

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「聖書の同盟」(船津靖/KAWADE夢新書)には、シオニズムについて詳しく書かれている。これが実に興味深い。シオニズムといえば、ヘルツルだが、彼はユダヤ国家の領土として、パレスチナに固執しておらず、シナイ半島や南米、ウガンダなどを挙げていた。聖公会のウィーン大使館付神父のウィリアム・ヘクラ―は、宗教に関心がなかったヘルツルを訪問し、パレスチナの地理や考古学、失われた「契約の箱」(十戒の石版が納められた箱。)のロマンを教え、パレスチナに影響力を持つドイツ皇帝・ヴィルヘルム2世との会見を実現させている。ヘルツル後のベングリオン(初代首相)ら主流派は、”聖地のユダヤ国家再建”を悲願として掲げ、世界各地に離散するユダヤ人の魂を揺さぶる戦略を立てたわけだ。

本日のタイトル「土地なき民に、民なき土地を」は、そのキャッチフレーズなのだが、これの元を考えたのは、イギリスのシャフツベリー伯(=アントニー・アシュレークーパー:画像参照)である。前述の終末論に基づきキリスト教徒はイエス再臨の舞台を整えるために聖地奪還を支援しなければならないと考えた。ユダヤ人シオニストが台頭する以前の、少なくとも60年前から始まったキリスト教シオニズムである。彼は親族のバルマーストン外相に働きかけ、1838年エルサレム(当時はオスマン帝国下)に英領事館を開設している。この19世紀のイギリスのキリスト教シオニストは、聖書預言に夢中で、アラブ人の姿は眼に入らず、アラブ人キリスト教徒の存在にも思いが至っていない。それをこのキャッチフレーズが見事に物語っている。

イギリスのシオニズムといえば、最も有名なのは、1917年のバルフォア宣言であるが、バルフォア外相も熱心なキリスト教シオニストで、宣言に合意したウィルソン大統領も「牧師の息子の私がユダヤ人の聖地回復を手助けできるなら」と語るキリスト教シオニストであった。この前年ハリソン大統領(共和党)にパレスチナに入植するユダヤ人支援を求める嘆願書を提出したブッラクストーンの賛同者(413人)には、当時の最高裁長官、ジョン・ロックフェラー、JPモルガンらの名もあり、キリスト教シオニズムが神学者内の一潮流ではなく政財界にも広がっていることがわかる。キリスト教シオニズムは、アメリカにも広がっていったのである。

しかし一方で、アメリカには反ユダヤ主義が根強く、ヒトラーの台頭で難民化し、アメリカを目指したユダヤ人を乗せたハンブルグ港発のセントルイス号は、リベラル派のF・ルーズベルトの下で追い返され、937人中254人がホロコーストの犠牲となっている。当時の政府首脳はホロコーストを認識していたにもかかわらずである。またユダヤ系のニューヨーク・タイムズもホロコーストを認識しつつも黙殺した。在アメリカのユダヤ人エリートは、シオニストと対立関係(ドイツ系のエリートvsロシアのボグロムや東欧の貧民層のシオニストという構図)にあったのである。…つづく。

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