2023年9月6日水曜日

女王陛下の東インド会社

https://www.meisterdrucke.jp/fine-art-prints/William-Holland/1160534/%E3%80%8C%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%82%BA-%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%92%E3%83%BC-%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%80%81%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3%E3%80%8D%E3%80%811798-%E5%B9%B4%E3%80%811947-%E5%B9%B4%E3%80%82.html

「世界史を作った海賊」(竹田いさみ/ちくま新書)の書評、最終回。商業資本隆盛の大航海時代、スパイス、砂糖、コーヒー、茶といった変遷はあるのだが、全て薬品として珍重されていた。近代医学成立以前だから当然といえば当然だが、それぞれ最初は高価故に上流階級が、その後安価になると一般庶民にも広がっていく。胡椒などのスパイスは、肉類保存のためと、小学校か中学校で教えられたが、完全なる嘘である。いくら安価になったとしても、そうはならなかったらしい。まあ冷静に考えれば、おかしな話ではある。

さて、女王陛下のの海賊は、私掠船や海軍、はたまた奴隷貿易でも活躍し、国富を蓄積したが、たがて東インド会社としてさらなる国富追求に活躍する。ただし、その前段階として、ヴェネツィア商人と組んだレヴァント会社という東地中海を本拠とした女王陛下の特許状をもった貿易会社が存在した。(他にもたくさんあったが、業績で言えば比肩できない。)これに対して、東インド会社の貿易独占範囲は、喜望峰を西端とし、マゼラン海峡が東端、半円を描くように日本の長崎を北端として半円状の海洋であった。インド洋、太平洋、紅海、ペルシャ湾、南シナ海、東シナ海、東南アジアのすべての海域など広範囲に及んでいる。

エリザベス1世に始まる東インド会社は270年間活動し、世界史上の様々な問題(インドと心を結ぶアヘン貿易やアメリカ独立戦争に関わる茶条例など)を起こしているが、東インド会社自体、海賊または海賊の末裔による経営であった。さもありなん、である。

モカから輸出されるコーヒー貿易が盛んになった(とはいえまだ上流階級のもので、オランダ東インド会社が後にジャワやセイロンから安価なコーヒーが入り一般化する。)頃、コーヒーハウスが生まれ、かのロイズ保険会社は、ロイズ・コーヒーハウス(画像参照)から生まれている。このロイス・コーヒーハウスでは、ビジネス環境を整えるとともに、常時5人の店員を待機(ウェイト)させていた。ここからウェイター、ウェイトレスという職業名が生まれたという。やがて、東インド会社と一体化し会員制になっていく。

アベンの密輸による清との三角貿易はあまりに有名だが、コーヒーに代わって「緑茶」が輸入された。ちょうど、名誉革命直前の頃らしい。紅茶になるのは、その後で、上流階級は「緑茶」を飲み、紅茶の一般人との差別化を図っていたらしい。紅茶全盛時代になっても、トワイニングとリプトンの階級差が生まれていくのがイギリスの流儀である。

イギリス史は、海賊の歴史でもあると言われるが、まさに近世から近代にかけて極めて重要な事実である。産業革命も、この時代の国富の蓄積がなければありえなかったわけで、改めて、この新書を読んだ意義を感じるところである。

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