2023年9月14日木曜日

魔女とカルトのドイツ史

「魔女とカルトのドイツ史」(浜本隆志著/講談社現代新書)を読んでいる。著者の分析によると、ナチスは20世紀最大のカルト集団であるという。その背景をドイツ史のカルト事件を追うことによって明らかにしようとする本である。倫理では、フランクフルト学派やアーレントが哲学的・心理学的に明らかにしようとしているが、まさに違うベクトルからのアプローチである。今日1日の通勤時に60%ほど読んだ時点での書評&備忘録であるが…。

中世からドイツには、奇妙な集団による集団妄想症候群とも言うべき行動が頻発している。1284年のハーメルンの笛吹き男伝説=130人の子供の失踪事件、子供十字軍、異端審問、舞踏病、(ペスト流行時の)鞭打ち苦行、死の舞踏への熱狂などは、規模はともかく典型的なカルトの特徴を持っている。14世紀のペスト蔓延時のユダヤ人大量虐殺、16-17世紀の魔女狩り(最も少なく見積もって2万人)では、ドイツが最も群を抜いている。

これらの極めて特異な現象は、一見すると個別に発生しているように見えるが、解明の手がかりとして、ベートーヴェン、ヴァーグナー、ニーチェなどの音楽や哲学に典型的に認められる。悪魔的・超自然的(デモーニッシュ)なドイツ的内面性や非合理主義に注目してみると、ゲルマンの基層文化にさかのぼり、北方の厳しい自然風土が生み出した荒々しいゲルマンの神々とつながる。他方、ドイツ人は生真面目な国民性を持ち、法的規範をきちんと遵守するし、また合理的・論理的思考に基づいて行動する。この対象的な二極性が内在している。ドイツ精神史では、この二極性は特徴的で、近現代の思想史・文学史に限定しても、唯物論と観念論、合理主義と非合理主義、啓蒙主義とシュtゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)、リアリズムとロマン主義、自然主義と反自然主義などの対立する極が相互に現れるという得意な現象が見られる。

これは拡大すれば、北方民族であるドイツ人の内省的性格と、明るい南欧のラテン文化へのあこがれという相対立する局面であり、ドイツ精神史は、二極性の矛盾と葛藤を常にはらみながら思弁を重ねてきた。このバランスが崩れた時、例えば天候不順、飢餓、戦争、ペスト、宗教的政治的対立などに直面した時、パニック現象が発生して、それが集団妄想やカルトの発生に密接に関わることになる、というわけだ。

…なるほど面白い論説だと私は思っている。道具的理性や大衆の心をつかもうとするプロパガンダという視点を超えた、もっと深みを感じる論説である。

0 件のコメント:

コメントを投稿