2023年8月22日火曜日

新課程と「倫理」の終焉

私の高校時代は、今の「倫理」は「倫理社会」と呼ばれていた。ちょうど新卒で教師になった時に、「現代社会」という教科ができた。面接の時、ある女子学生が「新しい現代社会を教えたい。」などと発言していたのを思い出す。まあ、倫理と政経を足して2で割ったような教科である。ただこの頃は4単位の学校もあったはずだ。その後、社会科は地歴科と公民科に分けられ、それでも公民科は、倫理や政経あるいは現代社会が必須科目であった。長いこと、実業高校にいたので受験科目云々については詳しくない。

問題は、この2年生から始まっている新課程である。今の3年生までは、地歴(地理・世界史・日本史)と共に、難関国公立大学は、倫理・政経という2科目を共通テストで課している。倫理・政経ではなく、倫理、政経、現社など公民1科目単独で受験できる国公立大学も多い。ところが、新課程で現代社会は「公民」と名を変え、2単位で必須かつ共通テストでは、倫理もしくは政経と組むカタチで受験科目となった。(地歴も、地理基礎、歴史基礎が必須かつ共通テストの受験科目となった。)要するに、共通テスト受験生の負担は、大きくなったといえる。

思考を重視するという文科省のポリシーは悪くはない。ただ、限られた時間の中で受験科目でありながらこれらを全て消化することは不可能に近い。どうしても受験科目である以上制約を受ける。もちろん、共通テストも(社会科に限って言えば)少なくとも読み込む文章量がかなり増え、難化したのは間違いない。

何より私が痛感するのは、倫理の比重が以前よりかなり軽くなったことである。私が学校経営者の立場なら、「公民」は1年か2年で履修し、3年の文系生徒は、倫理もしくは政経を選択科目とするだろう。文系の生徒は、法学や経済学、経営学など志望の生徒が多いので、政経を選択する方がいいだろう。すると倫理を選ぶ生徒は、十中八九、少数派となる。

私は、倫理が専門である故に、実に悲しい状況に映る。地歴科目を理解するのにも、倫理がカバーできる範囲は大きい。(宗教学を含め)哲学はやはり学問の王である。こういう国際標準の教養を身につける場が、受験システムの関係で失われることを深く憂慮するのだ。新課程に押しつぶされ、終焉と読んでも差し支えのない「倫理」という科目が、次の新課程で再興することを期待したい。

0 件のコメント:

コメントを投稿