2023年7月1日土曜日

英国黒歴史 名誉革命の真実

「夫婦で行く意外とおいしいイギリス」(清水義範/集英社文庫)を通勤電車で読んでいて、前半部のスコットランド紀行を1日で読み終えた。なかなか面白い。スコットランドは、エジンバラなどのローランドと北部の山岳地帯のハイランドでかなり文化が違う。ハイランド・フォート・ウィリアムから南に進んだところに、グレンコーの谷がある。ツアーのバスが停車して、「大虐殺のあった場所だ」とガイドが言ったそうだ。(下の画像参照)

これには名誉革命が関わっている。ハイランドの氏族はカトリックが多く、ジェームズ2世を支持するジャコバイト派の全氏族長や指導者たちにウィリアム王への忠誠を誓う宣誓書を期限(1691年末)までに提出、従わない場合は武力報復という命令がでた。グレンコーのマクドナルド氏族長は期限ギリギリまで遅らせ、直前に着いたが署名場所が変更になり、冬の厳しい気候もあって1月6日に署名した。2月1日に徴税のためと称し、キャンベル氏族軍20名がやってきた。2週間歓待された後、キャンベル氏族軍に攻撃命令が出て、氏族全員が虐殺、逃げ出した者も凍死し皆殺しにされた事件である。これは、国務長官ステア卿と王の命令であった。

で、ここからが今日のエントリーの本題である。高校世界史Bには、名誉革命について、(ジェームズ2世の娘)メアリ2世オレンジ公ウィリアムは、ともに王位につき、権利の章典を受け入れたことだけが記されている。まあ、亡命したジェームズ1世よりはるかにイメージが良いわけだ。清水義範は、このウィリアム王について深堀しているのである。

17世紀のオランダは海洋貿易で大躍進した。しかしイギリスとフランスがオランダを潰さんとする。1672年イギリス艦隊がオランダの商船を襲い海戦が始まる。すると、フランスはオランダに進軍した。この事態を打開するために当時22歳のオラニエ公ウィレムが統領(連邦最高司令官)に指名される。彼は奇策を用いる。イギリスのジェームズ2世はカトリックで、ルイ14世と親密である。だが、イギリス国民はカトリックを悪魔の宗教だというぐらい嫌っている。ルイ14世にイギリスが抱き込まれることを懸念している。私の妻はジェームズ2世の娘であるから義理の息子にあたる。ならば、ジェームズ2世をイギリスから追い出し、自分が国王になれば、オランダの危険は一気に薄らぐ、というわけだ。

というわけで、1672年11月、ウィレム3世は、オランダ艦隊を率いてイギリスに向かう。艦隊は500隻、上陸用兵力は15000人。このイギリス上陸作戦は見事に成功し、イギリス人はオランダ軍の侵略を呆然と見ていただけであった。要するに、イギリスがオランダに乗っ取られたのが名誉革命である、というわけだ。

…裏付けを取ってみる。1688年6月30日、ジェ-ムズ2世にできないと信じられていた世継ぎができた。この時、イギリスの7人の貴族がウィレムに招請状を出している。ウィレムは、ドイツの諸侯にいざという時の援軍提供の約束を取り付け、フランスの再侵攻に備えた。ルイ14世はライン川方面に侵攻したのでオランダへの即時侵攻はないと判断、ホラント州議会でのイギリス遠征を承認してもらう。イギリス国民の権利回復を求める趣旨のパンフレットを大量に印刷、11月15日に上陸した後、印刷物を配布しその主張を訴えた。イギリス軍内部でもカトリックの士官への不服従があったり、ウィレムのいとこに当たる司令官がオランダ軍に寝返ったり、常備軍の司令官が脱走したりと、ジェームズ2世の人望がまるでなく、ウィレムがロンドンに入るのである。名誉革命の真実は、ウィレムのイギリス”国盗り物語”といった方が正確である。ちなみに、ジェームズ2世=カトリック側も、アイルランドやスコットランドで、フランスと同盟して反革命闘争を行っている。グレンコーの谷の事件は、この延長線上にあるわけで、なんともウィレム、恐るべしである。

https://mirandalovestravelling.com/ja/%E4%BB%8A%E3%8
2%82%E8%AA%9E%E3%82%8A%E7%B6%99%E3%81%8C%E3%82
%8C%E3%82%8B%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%B3%
E3%82%B3%E3%83%BC%E3%81%AE%E8%99%90%E6%AE%BA
/
なお、ウィキでは、次のような記述がある。『なお、オランダ主導によるイギリス侵略という側面を強調する歴史解釈もあり、現在では、名誉革命は内乱と外国の侵略が併存した革命であり、イギリス人の誇り及び介入したオランダ政府の政治的思惑などから、外国の介入の要素が意図的に無視されてきた、とされている。』

…まあ、大英帝国にとっては名誉革命は50%が黒歴史であるわけだ。日本の教科書もそれに従っているわけだ。今の今まで、こういう真実を日本の教科書も参考書も無視してきた故に私もはじめて知ったわけで、こういう史実はまだまだあるに違いない。それがちょっと悔しいのである。

0 件のコメント:

コメントを投稿