2022年6月26日日曜日

啓蒙の弁証法 考

フランクフルト学派のホルクハイマーとアドルの著書に「啓蒙の弁証法」というのがある。啓蒙とは、神話や空想ではなく、知識をよりどころとし、未知なるものをなくして人間を恐怖と不安から開放することである。ギリシア以来、自然を外部とし対置する「近代的主体」を確立してきた。こうして生まれた近代的主体は、自然を支配する集団的社会制度を作るが、それは第二の自然となり人間を支配し、さらに自然に対して支配的であるのと同様に、人間(他者)を支配しようとする全体主義を生み出した、という内容である。

近代自然科学ならびに技術や社会科学の進歩によって、その成果をもとに、人間支配の構造が確立されていくというわけだ。ナチスがいかにして独裁に至ったか。啓蒙の弁証法を考えてみようと思う。

ナチスの政治信条の中軸はは、ベルサイユ体制への不満である。そもそもWWⅠの敗戦は、ドイツ革命によるもので、社会主義者には、マルクス・トロツキーを始めユダヤ系が多かった。ユダヤ陰謀論である。第二次大戦のようにドイツが廃墟となったわけではなく主戦場はベルギーやフランスであった。革命でヴィルヘルム2世が亡命し敗北したが、ボクシングで言えばまだまだ戦えるのにセコンドからタオルが投げられTKOされた感覚である。で、あるのに、莫大な賠償金が課せられた。これはWWⅠが総力戦となり莫大な兵器、さらに国民国家化(=国民皆兵制)による兵士の補充が容易になった故で、これまでの戦争に勝てば儲かるというテーゼが、まだ生きていたが故である。大戦後の経済混乱、主にハイパーインフレは、この賠償金に主に由来するのだが、ドイツ銀行などユダヤ系金融資本はアメリカと組んで儲けていると批判を向けた。

このようなユダヤ陰謀論は、単純でわかりやすい。そういう反ユダヤ的な精神的土壌(南部のカトリックだけでなく、北部のルター派は意外に反ユダヤ的である)は十分あったし、ユダヤ人排斥、アーリア系のみのドイツによる再興という政治信条は、中間層に指示された。(裕福な層にとってはやっかいだが、少なくとも貧困層の社会主義・共産主義よりはマシであった。故に財界からナチスに政治資金が流れるようになる。)

ナチスの党勢拡大には、旧軍の右派兵士をうまくSA(突撃隊:ナチスの民兵組織)に取り込んだこと、SAの制服姿は、ドイツ国民に好意をもたれた。(制服好きの国民性なのである。)さらにポスター・演説・映画などのプロパガンダがうまかったことも挙げられる。先日、とあるYou Tubeで、広告代理店の優秀なCM製作者は、偏差値40の人間に理解されるようなCMをつくるという話が出ていた。こういう、わかりやすさがナチスの台頭を支えたのは間違いがない。啓蒙とは概念化である。ドイツの敗北→ユダヤ人のせい、ドイツの経済的混乱→ユダヤ人のせい ユダヤ人を追い出す→アーリア人による第三帝国、といった啓蒙は、それなりに波及に成功した。

ヒトラーが、ミュンヘン・カンプで失敗し、合法的な政権奪取を画策するが、それでも得票率は3割であった。様々な手段で共産党を弾圧し、無理やり得票を増やそうとする。最後には「全権委任法」を時限立法だといつわって成立させる。これらは、当時最も民主的とされたワイマール憲法のうまい利用(ある意味社会科学に長けていないとできない。)である。政権奪取度は、ケインズ的な手法(アウトバーンなどの有効需要や、強気の外交政策でベルサイユ条約をないがしろにした軍需拡大)でドイツ経済を安定化させることに成功したことも大きい。

ホロコーストについても、同様で、まずは焚書。ユダヤ人とはなにかを法的定義(ニュルンベルグ法)、さらにユダヤ系をドイツから追い出し。勢力圏拡大にともないユダヤ人が増加すると強制収容所の建設。クリーンバイオレンスから行動舞台、ガストラック、最後はアウシュビッツというふうに拡大化した。

たしかに、ナチスは、近代自然科学ならびに技術や社会科学の進歩によって、その成果をもとに、人間支配の構造が確立させたといえる。

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