2020年8月18日火曜日

欧米石炭火力発電減少 考

https://jp.wsj.com/articles/SB12580682065743184470104583075980765577130
先日、別子銅山に行った時、閉山の理由は簡単で、コスト高になり格安な輸入の銅鉱石に負けたということだった。地理で鉱業については、特に市場原理を教えることになる。

さて、WEB記事で石炭火力発電について書かれたものを読んだ。なかなか面白かった。秋田大学の国際資源学科にPBTの学生を何人か送っているし、ちょっとこの記事を整理していこうと思う。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/20510

OECD諸国では、この1~3月期、4%ほど石炭火力発電量が減り、再生可能エネルギー(太陽光や風力など)に変わったという。これだけ見れば、地球温暖化に先進国が対応しているように見える。ところが、実際のところ、もう少し複雑である。

確認事項その1:電力は需要と供給が一致しなければならない。供給過多でも停電する。原子力発電のメリットは計算できる一定量の電力を常に供給できること。水力発電などを含めた再生可能エネルギーは供給量がかなり変化する。したがって、火力発電がその供給量を調整する役割がある。

確認事項その2:石油はほぼ世界的に同一価格だが、石炭の価格は地域差がある。たとえば、露天掘りの石炭は低コストだが、立坑で深いところから掘る石炭は高コストになる。

OESD諸国、特にアメリカや欧州では、要するに天然ガスの火力発電に移行せざるを得なくなっているわけだ。アメリカは、地理でよく語るのだが鉄道輸送網が発達している。ただし旅客輸送はごく少数でほとんどが貨物輸送である。石炭も鉄道で運ばれる。当然産地と発電所の距離にコストは比例する。発電所到着価格では、パイプラインで運ばれる天然ガスの価格の7割でないと勝てないそうだ。しかも石炭火力発電所の老朽化も進んでいる。

イギリスも経済的な理由で石炭火力発電は衰退している。産業革命を支えてきた炭鉱の閉山、発電所の老朽化で発電量が減少している。アメリカ同様、北海の天然ガスを利用した方が安くつく。

ドイツは、大規模な褐炭炭田を抱えるので、雇用、エネルギーの安全保障(ドイツはロシアからの石油・天然ガスにかなり依存している。)などの理由から簡単に閉鎖できない。2038年まで石炭火力発電を続けるらしい。徐々に脱石炭化を進めているわけだ。

したがって、各国とも、環境問題の視点から石炭火力発電を減少させているわけではなく市場原理、エネルギーの安全保障など様々な条件から思慮しているわけだ。

とはいえ、各国ともSDGsの意識を持っていることは間違いない。少なくとも先進国は、経済性を意識しながらも再生エネルギーの拡大には熱心に取り組んでいるのだが、確認事項1のように、電力の需要供給一致のためには、(石炭か石油か天然ガスかはともかく)火力発電は最低限必要であることも知る必要がある。火力発電はCO2を出すからダメという簡単な論理は通用しないのだ。

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