2013年9月26日木曜日

日経 池内恵氏のシリア情報

アラウィー派をアラビア語で画像検索してみた
先日(24日)のエントリーで名前が出てきた池内恵東大準教授の論文が、今朝の日経に載っていた。「経済教室・シリア内戦と国際秩序/米国の覇権衰退で複雑化」というタイトルである。
なかなか有用な情報が載っていたので、モーニングで読んだ後コンビニで購入してしまった。(笑)以下、重要な情報をエントリーしておきたい。

まずシリアという国について。シリアには見るべき産業も鉱物資源もなく、人口も2100万人と少ない。エジプトやサウジ・湾岸諸国と比べて国際政治的・地政学的な重要性は低い。アメリカがシリアへの介入に二の足を踏む理由のひとつである。ただ、同時にシリアは放置できない国でもある。シリアの隣国は皆、紛争の火種をかかえている。シリアが属国扱いするレバノンの宗派・派閥対立をあおる工作を得意とし、暗殺や無差別テロを駆使して支配下においていた。シリアは、パレスチナ人組織の強硬派・武装闘争を支援してイスラエルを脅かしている。トルコとの国境地帯には少数民族のクルド人を多く抱えている。イラクにはジハード主義勢力を送り込み国家再建プロセスを妨害した過去もある。そのジハード戦士たちが現在は反アサド勢力になっているわけだ。アサド政権はこのような周辺諸国の紛争に介入する能力をちらつかせたり、時には行使しつつ、戦えば負けるイスラエルや米国、国際社会と直接対決を回避することで政権の安全保障と経済的見返りを得てきた。

シリア内戦の構図は、次のようなものである。大都市中心部の少数のエリートの「持てる者」と近郊や地方都市・農村の「持たざる者」の地域間・階級的対立がある。アサド政権は、ムスリムの中でも少数派のアラウィー派が軍や秘密警察を支配し、少数派のキリスト教徒や一部のスンニ派も取り込んで大多数の国民を恐怖で支配してきた。政治を自由化すれば政権崩壊は不可避であると見たのだろう。内戦はさらに宗派紛争の様相を濃くしてきている。アラウィー派やキリスト教徒は政権維持にすがらなければ報復を受けると考えている。さらにクルド人は反政府勢力のアラブ民族主義を恐れている。

グローバル・ジハード勢力(アルカイーダなどと関係する勢力)は、反政府勢力の多数派にはなっていないが、彼らの存在が欧米の支持や支援を阻害している。一方で、圧制者に対するジハードは義務であるという規範は多くの一般のムスリムに共有されており、シリア内外のムスリムが反アサドで戦う事が宗教的義務と見る状況になっている。

さらに、池内氏は、米国の抑止力低下によって、中東の米国同盟国は独自の行動を取りかねないと指摘する。イスラエルが、イランの核開発へ単独攻撃する可能性やサウジが独自の同盟政策や介入政策を取り、地域紛争の構図を複雑にする可能性もある。日本にとっても中東の不安定化は、エネルギーやスエズ運河の安全運航など、死活的な意味をもつと結論付けている。

…シリアという国は不思議な国だ。東アジアにもちょっと似た国があるが、それ以上に内戦の構造が極めて複雑である。しかしながら池内氏の解説は極めて明確で解り易かった。ちなみに、アラウィー派は、シーア派のアリーを神格化する宗派であるらしい。これにインドの輪廻思想なども入っていて、かなりイスラームの中でも特徴的な教義であると思う。私にはそれも興味深い。

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