2013年2月4日月曜日

俊逸だった沢木耕太郎のキャパ

昨夜のNHK特集「沢木耕太郎推理ドキュメント 運命の一枚~”戦場”写真 最大の謎に挑む~」は、素晴らしかった。私は、そもそも沢木耕太郎の大ファンであるし、沢木耕太郎が一時、戦争カメラマンのキャパの本を翻訳していることも知っていた。ただ、その翻訳本は読んでいない。だから、全くの白紙で番組を楽しんだのだ。

彼の本名がフリードマンと紹介された瞬間に私はキャパはユダヤ人なんだと分かった。だから、ハンガリー出身のユダヤ人カメラマンとしてスペイン内戦で、人民戦線側に立ち、フランコ=ナチスのファシズムと戦ったのだ。そう、無名のキャパを世に出した一枚の写真は、スペイン内戦の時のものである。この写真は、果たして本当に兵士が撃たれた瞬間のものなのか?

場所の特定。その丘が戦場となった日時と撮影記録の対比。写真の兵士が持つ銃は安全装置を外していない事実、などから少なくとも演習時のものと結論付ける。

面白いのはここからである。他に残されていた同じ場所での写真と対比すると、この兵士がおそらく足を滑らせたらしいという推理が成り立つ。写真を重ね、3D化したうえで計算をしていくと、もう一人のカメラマンの存在が浮かび上がるのだ。それが、キャパの恋人であったゲルダ・タローだったのだ。キャパの使っていたのは35mmのライカ。ゲルダは二眼レフのローライである。ネガが失われているのだが、写真の構図から二眼レフのものらしい。撮影者もキャパではなかった。

この有名な写真は、実戦はなく、しかもキャパが撮ったものではない。だが、反ファシズムのシンボルとして独り歩きしていく。その後、恋人ゲルダが他の戦場で事故死してしまう。キャパは、この1枚については沈黙を守る。うーむ。苦しすぎる十字架である。

その後キャパは、ノルマンディー上陸の最前線に立つ。バタバタと倒れる兵士を、敵(ドイツ軍陣地)に背を向け撮影する。まるで撃ってくれともいわんばかりに。だがキャパは死ななかった。いや死ねなかったのだ。彼がおそらく安らかになれたのは、ベトナムで地雷を踏んだ時ではなかったか。そんな想いがかけめぐるような番組だった。

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